看護職の権限拡大のための定義と概念

ナイチンゲールを目指す看護師

看護職の基本的責務は、これまで日本看護協会が、看護と社会との関係、ならびに看護ケアを受ける人々に対するの看護師の責任と権限などを理解できるようにするために発表してきた基本的文書を中心にすえ、「保健師助産師看護師法」等の基本的法律に加え、これからの社会の動向に対応するために必要な法律や制度、また看護職のキャリアップと使命感。政策についての理解をすすめることをねらいとして編集したものです。

刻々と変化する社会や多様な価値に対応し、質の高い看護の提供を目指すためには、専門職としての社会的責務を果たすために必要な基本的な考え方や法律について理解を深めることが必要です。本書では、それを促すことができるように、自己学習やグループ学習の手がかりとなるミニコラムを設けました。

ぜひ、ミニコラムの問いについて、資料を確認して考えてみてください。社会の状況や価値観の変化が、倫理綱領や政策に影響を及ぼしていることが理解できるでしょう。

構成は、看護の基本となる考え方と看護業務を規定する法と倫理の2章からなっています。

「看護の基本となる定義と概念」については、理論家によって明らかにされたものや、日本看護協会国際看護師協会国際助産師連盟による定義を掲載しています。「看護業務を規定する法と倫理」には、看護の基本法を挙げるとともに、関係法規には、日本の法律の基盤となる日本国憲法をはじめ、平成26年に改正。

施行された「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」、医療、看護に関連のある法律をまとめて構成しました。倫理の項では、ヒポクラテスの誓い、ナイチンゲール誓詞など、歴史的な視点から医療専門職について考えられる内容を網羅するとともに、日本看護協会、国際看護師協会、国際助産師連盟により示された倫理綱領、人権に関しては世界人権宣言、患者の権利に関するリスボン宣言等をまとめています。

これらの資料は、看護専門職が日々の実践を支える行動規範として、ならびに、看護について基礎教育を学ぶ際、あるいは継続教育や新入職員のオリエンテーション等にもご活用いただけます。

看護の基本となる定義と概念

ナイチンゲールによる看護の概念(フロレンス・ナイチングール 1859年)

フローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale)

私はほかによい言葉がないために看護という言葉を使う。看護はせいぜい、薬を与え湿布をするくらいの意味にしか使われてこなかった。しかし看護が意味すべきことは、新鮮な空気、光、暖かさ、清潔さ、静かさの適切な活用、食物の適切な選択と供給そのすべてを患者の生命力を少しも犠牲にすることなく行うことである。

女性は誰でもよい看護婦になれるということが繰り返し言われ書かれてきた。別な見地から、私は看護を構成するこの要素自体が全く理解されていないと考える。

私は看護婦に常にその責任があるとは言わない。衛生の悪さ、建築の悪さ、管理上の手はずの悪さが、看護することをしばしば不可能にする。しかし看護の技は、私が看護という言葉で理解していることを可能にするような手はずをこそ含んでいるべきである。

よい看護を構成する真の要素は、病人についてと同様に健康人についても少しも理解されていない。健康についてのあるいは看護についての同じ法則、これらは現実に同じものなのだが、それは病人と等しく健康人にもあてはまる。その法則を破った場合、健康人に現れる結果の方が病人ほど激しくないだけである

それも時としてそうなのであっていつもではない。内科的治療とは機能の外科手術であり、本来の外科手術は四肢および器官に行われるものである。そのどちらも障害となるものを取り除くこと以外は何もなし得ないし、どちらも癒すことはできない。

自然のみが癒すのである。外科手術は治療の妨げになる弾丸を肢から取り除く。しかし自然は傷を癒す。内科的治療にしても同じである。ある器官のはたらきが妨げられると、私たちの知る限りでは、内科的治療は自然がその妨害物を取り除くのを助けるのであって、それ以上は何もしない。

そしてそのどちらの場合にあっても看護がしなければならないことは、自然が患者にはたらきかけるように最善の状態に患者を置くことである。 (訳:小玉香津子・尾田葉子)

ヘンダーソンによる看護の定義(ヴァージニア・ヘンダーソン 1961年)

ヴァージニア・A・ヘンダーソン (Virginia Avenel Henderson)

看護師の独自の機能は、病人であれ健康人であれ各人が、健康あるいは健康の回復(あるいは平和な死)に資するような行動をするのを援助することである。

その人が必要なだけの体力と意思力と知識とをもっていれば、これらの行動は他者の援助を得なくても可能であろう。この援助は、その人ができるだけ早く自立できるようにしむけるやり方で行う。

基本的看護の構成要素

  1. 患者の呼吸を助ける
  2. 患者の飲食を助ける
  3. 患者の排泄を助ける
  4. 歩行時および坐位、臥位に際して患者が望ましい姿勢を保持するよう助ける。また患者がひとつの体位からほかの体位へと身体を動かすのを助ける
  5. 患者の休息と睡眠を助ける
  6. 患者が衣類を選択し、着たり脱いだりするのを助ける
  7. 患者が体温を正常範囲内に保つのを助ける
  8. 患者が身体を清潔に保ち、身だしなみよく、また皮膚を保護するのを助ける
  9. 患者が環境の危険を避けるのを助ける。また感染や暴力など、特定の患者がもたらすかもしれない危険から他の者を守る
  10. 患者が他者に意思を伝達し、自分の欲求や気持ちを表現するのを助ける
  11. 患者が自分の信仰を実践する、あるいは自分の善悪の考え方に従って行動するのを助ける
  12. 患者の生産的な活動あるいは職業を助ける
  13. 患者のレクリエーション活動を助ける
  14. 患者が学習するのを助ける

(訳:湯槙ます。小玉香津子)

看護の概念的定義、歴史的変遷、社会的文脈

(日本看護協会2007年)

看護の概念的定義

看護とは、広義には、人々の生活の中で営まれるケア、すなわち家庭や近隣における乳幼児、傷病者、高齢者や虚弱者等への世話等を含むものをいう。狭義には、保健師助産師看護師法に定められるところに則り、免許交付を受けた看護職による、保健医療福祉のさまざまな場で行われる実践をいう。

看護の目的

看護は、あらゆる年代の個人、家族、集団、地域社会を対象とし、対象が本来もつ自然治癒力を発揮しやすい環境を整え、健康の保持増進、疾病の予防、健康の回復、苦痛の緩和を行い、生涯を通して、その人らしく生を全うすることができるよう身体的・精神的。社会的に支援することを目的としている。

身体的支援

看護職が対象者に対して行う体位変換や移送、身体の保清等を意味するが、これらは看護職自身の五感を働かせて対象者やそれを取り巻く環境の異常を早期に発見したり、身体を道具として用いて視診、聴診、触診等のフィジカルアセスメント技術を駆使したりすることが前提となっている。

またこれらを通して、直接対象者に「触れる」ことにより、看護職と対象者の間に親近感や親密さがもたらされる。

精神的支援

看護職は、時間的物理的に対象者の身近に存在することにより、対象者にとって親しみやすく話しかけやすい存在となる。そのため、対象者の権利の擁護者として機能することができるだけでなく、また看護職自身の人格を生かした支援を行うことができる。

社会的支援:看護は、あらゆる年代の個人、家族、集団、地域社会を対象としているため、その対象の状況や社会背景に応じた支援を行うことができる。

看護の機能

身体的、精神的、社会的支援は、日常生活への支援、診療の補助、相談、指導及び調整等の機能を通して達成される。

日常生活への支援とは、対象者の苦痛を緩和し、ニーズを満たすことを目指して、看護職が直接的に対象者を保護し支援することであり、保健師助産師看護師法第5条の「療養上の世話」に相当する。

診療の補助と相談、指導調整

診療の補助とは、医学的知識をもって対象者が安全かつ効果的に診断治療を受けることができるように、医師の指示に基づき、看護職が医療処置を実施することであり、同条の「診療の補助」に相当する。

相談とは、対象者が自らの健康問題に直面し、その性質を吟味検討し、対処方法や改善策を見いだし実施できるように、また医学診断や治療について主体的に選択できるように、看護職が主に言語的なコミュニケーションを通して支援することである。

指導とは、対象者が問題に取り組み、必要な手だてを習得したり、活用したりして、自立していくことができるように、看護職が教え導く活動のことである。

調整とは、対象者がよりよく健康生活や療養生活を送ることができるように、看護職が他の職種と共同して環境を整える働きをいう。相談、指導、調整には、同条の「療養上の世話」「診療の補助」の両方が関わっている。

看護の特質

これらの諸機能を対象者のニーズに応じて適切に駆使するには、対象者を全体的に理解することが不可欠となるが、それは看護のもつ次の特質により容易となる。

つまり、保健医療福祉は多くの職種から成るチームで担われており、他の職種もそれぞれの立場から支援を行っているが、看護の特質は、看護職が対象となる個人、家族等の身近で支援できる強みを生かすかかわり方にある。看護職は、保健医療福祉の他の職種と比べ、24時間を通して、患者に最も身近にかかわることのできる専門職であると言える。

このように対象者の身近にあり、関心を寄せかかわることにより、看護職は気がかり、苦痛や苦悩等の対象者のニーズに気づき、人間的な配慮と尊厳を守る個別性のある看護を行うことができる。

この対象者との身近さという強みは、近年強調されてきた対象者の自律性の尊重や対象者との信頼関係の観点からも重要である。初対面の対象者との間にも対等で相互的な関係を築くことが容易であるため、対象者の自己決定への支援に不可欠な、人間としての尊厳及び権利を尊重し擁護する筋道を形成することができるからである。

看護職はこの強みを自覚し、常に温かな人間的配慮をもって接する必要がある。

歴史的変遷

訓練を伴う職業としての看護、学問としての看護は、遡ること約1世紀半、英国ビクトリア朝時代に誕生した。近代看護の創始者として知られるフローレンス・ナイチングールが1859年「看護覚え書き」を著し、翌1860年に聖トマス病院にナイチンゲール看護婦訓練学校を開設した。

以降、欧米諸国で看護は職業として発展すると同時に、特に米国では学問としても発展し、急速に学士課程教育、さらに大学院修士・博士課程教育が拡がっていった。

米国の看護師たちは、続々と看護理論を著し、さらに看護研究も盛んに行うようになり、1955年には看護研究専門誌が発刊された。米国では、このような「看護とは何か」「看護師は何をする人か」といった看護の定義・看護独自の機能の探求や教育及び学問の発展が、より高度な看護実践を行うクリニカルナース・スペシャリストやナース・プラクティショナー等の輩出につながってきた。

日本における看護の職業的発展

わが国における看護の職業的発展は、1885年看護教育機関の創設、1915年看護婦規則制定に始まり、第二次世界大戦後、連合国最高司令官総司令部(以下「GHQ」という。)の指導のもと、1948年に保健婦助産婦看護婦法(2001年保健師助産師看護師法へと改称)が制定され、看護行政の基盤が整備されたことに基づく。

その後、1961年の国民皆保険の実現のほか、1970年代から顕在化してきた疾病構造の変化や医療の高度化、高齢社会の到来等に伴い、看護業務は複雑化。高度化し、看護職の質的量的充実が国家的課題となった。それを受け、それまで社会の要請に応えて職業として発展してきた看護にも、高等教育の必要性が認められるようになった。

1987年、厚生省「看護制度検討委員会」は、看護職の社会的評価や社会的地位の向上を目指すという目標のもとに、大学。大学院の増設等を提言した。従来の病院附属専門学校中心の教育だけでは不十分となり、1990年代以降、看護における大学教育が本格化し、修士課程教育、博士課程教育も発展してきた。

1992年には看護師等の人材確保の促進に関する法律が施行され、2006年現在、看護系大学は146校となり、その1学年定員数は11,000人を超え、看護師養成校の1学年定員の合計(54,031人)の2割を占めるようになっている。

また、このような背景のもとに、次々に新しい看護系学会が誕生し、学会機関誌や学術誌も多数刊行されるようになり、看護研究も盛んになってきた。本会が、実践にねざした看護研究の支援を通して看護職の学術研究の振興に努め、人々の健康と福祉に貢献することを目的に、事業として実施している日本看護学会も2006年で37回を迎え、参加者及び発表演題も年々増加している。

2006年は専門領域別学会を10都道府県看護協会において開催した。そのほか日本学術会議に参加する等、学問的な発展と実践を支える看護職の努力により、看護は社会の要請に応えることのできる専門職への道を着実に歩んできている。

それと同時に、看護が必要とされる場も拡大した。従来看護は病院におけるものが主であったが、1994年の訪問看護制度の開始により、助産師にしか認められていなかった独立開業権が看護師にも認められるようになったこと等を受け、現在では福祉施設や在宅等、多様な場で看護が提供されるようになった。

社会的文脈

社会の要請に応えて職業として発展してきたという歴史的経緯から、看護においては、その実践に必ずしも学問が追いついていなかった時代が長く続いた。また、基礎教育では医師がその長を務める病院附属専門学校の歴史が長く、看護は専門職というより医師の補助的な役割と見なされてきた。

新たな看護のあり方に関する検討会報告書の意味

幾度かの看護師不足の危機の時代には、3K、7K等と椰楡されたこともあるほど、業務の実質的責任は重い一方で、その責任を果たすに相応しい権限はきわめて限られていた。
しかし、2003年厚生労働省「新たな看護のあり方に関する検討会報告書」において、

  1. 看護職は療養生活支援の専門家として的確な看護判断に基づく看護技術を提供すること
  2. 「療養上の世話」には医師の指示は必要ないが、看護職は医師への相談の要否について適切に判断できる能力・専門性を養う必要があること、
  3. 看護職は医師の指示内容の適切性や自らの能力との整合性を判断し、必要に応じて疑義を申し立てること、

等が示された。これは、看護職に対する社会的評価が高まったことにより、医療チームにおける看護職の発言権や決定権が拡大してきたことや、看護職独自の判断に基づく行為が認められる範囲が拡大してきたことを示している。

このような状況と相まって、根拠のある看護((Evidence based Nursing)として、ただ単に教科書や経験から得られた知識と技術を提供するのではなく、研究の成果を実践の場に活用して「エビデンス(根拠)」に基づいた知識と技術を提供する努力が求められるようになってきた。

例えば、褥療発生を予防する用具として病院で一般に使用されている標準マットレスに比べ、体圧分散寝具の方が優れていることが研究結果によって明らかになっている。

また経験的に行われてきた腰背部の温電法による排便・排ガスの技術、足浴による睡眠を導く技術等を科学的に分析し、その根拠を明らかにしようとする試みも行われている。

そのような中、看護職の権限拡大に伴い、看護職に求められる知識・技術も高度化し、その責務も厳格化している。2001年保健師助産師看護師法一部改正により、看護職の守秘義務に関する規定が設けられ、2006年同法一部改正では処分を受けた看護職に対する罰則規定の強化と再教育の徹底に関する規定が定められた。

キャリアプランの実現も必要

看護師は、様々なキャリアを積むことができる仕事です。その一方で、しっかりとしたキャリアプランを持っていないと、何かあるごとに次々と職場を変わり、いざ資格を取得したいとき、経験年数として加算できないようなキャリアを積んでしまうという危険もあります。
現在、看護系の大学などではキャリア開発の授業も組み込まれ、看護師のキャリアを学生のうちから考える学校も出てきています。
自分がどんな未来像を持ち、看護師としてどのような経験を積んでいく必要があるのかを考えることが、キャリアアップには必要なことなのです。

出典:看護師転職ごっこ

今後、看護職が専門職としてよリー層発展するためには、看護を行う権限とそれを保証する責務が表裏一体であることを理解し、自らの業に誇りと使命感をもつことが必要である。

保健師助産師看護師法に規定される2つの業についても、看護独自の機能は「療養上の世話」にあるとする見解が支配的であり続けてきた一方で、実際には多くの「診療の補助」業務に圧倒されてきた感も否めない。このような状況は、「診療の補助」を巧みに手際よく行う、時に「ミニドクター」と呼ばれる看護職や、患者に十分関われないという不満足感を抱く看護職を生み出してきた。

この背景には、多くの看護職が「診療の補助」業務を医師の補助と誤って解釈してきたということが関連していると思われる。看護の専門性は、これらの業を分けて捉え、そのいずれを重視するかという議論からは見えてこない。

「診療の補助」は、看護職が患者にとっての意味を考え、診療を受ける患者をサポートするものであり、患者の側に立った視点が明確にあって初めて看護と言うことができるのである。

この前提に立つと、これら2つの業は分けられるものではなく、相互に関連しあっており、一方の的確な遂行は他方を遂行する際に役立ち、より効果的になるという性質のものであることが理解される。

看護職が主体的に社会の期待に応えていくためには、看護機能の明確化とその機能をどのように果たしていくかの議論が不可欠である。


 

(日本看護協会:看護にかかわる主要な用語の解説―概念的定義・歴史的変遷。社会的文脈, 日本看護協会)