看護師のメンタルヘルスケアへの職場環境の改善策

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ストレスを抱え込む看護師

医療従事者は様々な産業保健上の危険因子に取り巻かれています。それは医療器具などによる物理的な要因、薬剤などによる化学的な要因、感染症のおそれなどの生物学的な要因、そして心理社会的な要因など多岐にわたっています。

そしてそれらは健康リスクとして大きな問題となっています。特に昨今、医療従事者のメンタルヘルスは喫緊の問題として組織的な対応が求められています。しかし医療が担う使命から、医療安全が優先されがちで、医療現場の産業保健活動は立ち遅れているのが実態です。

メンタルヘルスは医療現場における喫緊の課題

医療従事者の健康や安全が損なわれると、良質で安全な医療を提供するというミッションを果たせなくなる可能性があります。良質で安全な医療を提供するためにも、看護師を含む医療従事者が心身ともに健康であることが求められています。

意外と多い看護師のメンタルヘルス不調

医療職は、一般就業者に比べて不安や抑うつといったメンタルヘルス不調の頻度や自殺率が高いことが知られています。

看護師に関して言えば、メンタルヘルス上の理由で連続1カ月以上休職した看護師の割合は0.8%(20代に限れば1.0%)であり、労働者全体の割合0.3%の倍以上となっています(日本看護協会2011年病院看護実態調査)。

そして看護師の離職率は常勤で10.8%、新卒で7.5%と高い水準(日本看護協会2015年病院看護実態調査結果速報)となっています。

看護師の臨床看護実践能力は、現場との水準に大きな差があり、加えて精神的なプレッシャーが看護師の質も下げる要因となっています。新人看護師の定着率を上げるためにプリセプターシップを強化し、精神的サポートも含めた研修制度の構築に注力しています。

すなわち、医療従事者だからといって、精神的。身体的な病にならないということはなく、自己管理ができているわけでもないことが明らかになっています。あたりまえのようですが、医療従事者も、疲れがあること、感情をもった人間であることを認識しておく必要があります。

とくに看護師では、仕事のストレスが、燃え尽き症候群や離職のリスクファクターであることがよく観察されており、管理上の大きな課題となっています。

看護師のストレス要因

仕事量、時間的切迫・長時間労働、中断の多さ
マンパワー不足
夜間当直・交替勤務・不規則な勤務時間
仕事と家庭のバランス
重責(人命)、患者の死、事故
感染・暴力のおそれ、自殺企図者など特定の患者のケア
対人関係医療チーム内、患者・家族との関係
患者からの過剰な期待、訴訟のおそれ
新しいテクノロジーヘの対応
身体的就業環境
役割のあいまいさ、低報酬
事務的な仕事のために、十分な患者ケアができない

ストレスフルな状況下で見え隠れするのは

看護管理者をしていて筆者が一番ストレスを感じるのは、患者さんやご家族のクレームや医療安全上の問題に関する報告を聞く時です(報告する立場の人はもっとストレスフルな状況かもしれません)。

第一報は、当事者や医療安全などの専任スタッフではなく、現場の管理者から受けることが多くなります。その際、ほとんどの現場管理者は、当事者を擁護する発言をします。

擁護する発言の内容は様々です。「忙しかった」、「相手(医師だったり、患者だったり)にも問題がある」「私(管理者)の指導が適切でなかった」等、細かな表現はいろいろありますが、当事者周辺の環境や人間関係の要因も付け加えるのが一般的です。

もちろん、そういった要因が影響することは確かですが、主要因とは言い難い事例がほとんどです。しかしそれでも現場の管理者は、こうした要因に触れ、スタッフを擁護するのはなぜでしょうか。

ストレスフルな現象から逃げる

大切な問題に気付かぬまま、次の状況を引き起こしてしまうという、悪循環の構図を感じます(逆に現場の管理者が当事者であるスタッフを非難するようでは、別の面で心配ではあるのですが……)。

私がストレスを感じるのは、残念な事象が起こってしまった事実よりも、こうした悪循環の構図を目の当たりにした時です。なぜそのような現象が起きてしまうのでしようか。

現場の管理者もスタッフも何かに脅かされているかのようです。原因究明や残念な出来事の再発防止に関わり、事象の根本問題や本質から外れた反応に戸惑いを感じたことは一度や三度ではありません。

そうした戸惑いは筆者の主観的なものなので一般化は難しいかもしれませんが、 こうした漠然とした現場の抵抗感は、被害者意識にも繋がる危険性を感じるのです。

被害者意識からは、冷静に問題に対処する行動は難しいでしよう。問題の要因、そしてそれを取り巻く環境への認知自体が歪んでしまっているのですから。

問題の要因と情緒的反応を分けて考える

そんな被害者意識から離れて、日の前の問題に対処していくにはどうすればよいのでしようか。例えば、転倒事故の事例を考えてみましょう。

患者の高齢化が進むにつれ、転倒事故への対応はどこの病院でも深刻な問題となっています。重大な転倒事故が起こった時、患者への処置、主治医への報告、家族への連絡、管理者への報告など一度に多くの対応がスタッフには求められます。

手順やマニュアルに沿って対応をしていく中で、転倒防止策は適切だったのか、また日々変化する患者のリスクアセスメントはできていたのかを自問自答していることでしょう。

その過程において、転倒防止策の不備やアセスメントの問題点をご家族から責められたら、 どんな気持ちになるでしょうか。

マニュアルには、報告の手順や範囲は書かれていても、当事者の情緒的な反応の処理方法までは書かれていません。そんな時こそ、上司である看護管理者の対応が問われます。当事者の看護師はきっと自分を責めていることでしょう。

こうした転倒事故が起きる場合は、看護師からすると「いつもはきちんとしているのに、こんな時に限って……」という事例がほとんどです。ご家族の立場にしてみたら、「万全の対策をとっていればこんなことにならなかったはず」と、こちらの落ち度を責める気持ちが出てくることも仕方のないことかもしれません。

高齢化の進んだ病院の限られたマンパワー

水も漏らさぬ転倒防止策が不可能に近いことは、現場の看護管理者がいちばんよく知っています。最もショックを受けているのは、担当の看護師かもしれません。その看護師を管理者がかばいたい気持ちは痛いほどわかります。

しかし、 ご家族への説明の場面で、当事者の看護師をかばいたい一心で現場の管理者が発言することにより、話がこじれた事例もよく耳にします。専従のチーム(医療安全委員会等)が介入する以前の混沌とした現場だからこそ問題の要因と情緒的反応を分けて考えておくことが大切です。

看護師長や主任のケアへの役割

看護師長や主任などは、産業保健上「管理監督者」と位置づけられます。その管理監督者は、「事業者」(病院で言えば病院長や理事長など)の安全配慮義務を代行して行うものと位置づけられています。

そのため、看護師長や主任は職場のメンタルヘルスにおける役割として、部下に対する相談対応と職場環境の改善が求められているのです。

看護師長の相談対応とは

相談対応とは、部下へのサポートー話を聴くこと、情報を提供すること、必要があれば助言と、産業保健スタッフや事業場外の専門家に相談することからなり、治療的な関わりとは異なります。

医療従事者の性として、病める対象をできるだけケアしたいという気持ちを持っておられるかもしれません。一方で、専門家だけにメンタルヘルスの難しさをよく知っていてで、何をどこまでやればいいのかわからなくて困っておられるかもしれません。

いくら医療従事者とはいえ、日々多くの患者のケアにあたっておられる看護師長や主任に、部下のメンタルヘルスケアのすべてが任されるわけではありません。

看護師の立場からは、心身の不調時に相談をすることが役割ですが、管理監督者の立場では、部下の不調について話を聴き、不調の原因が十分了解できないときは、産業保健職や専門家に紹介をすることが求められています。

自分の不調に気付いた部下が自主的に相談に来てもらえるのが望ましいですが、自分で自分の不調に気がつかない場合や、気付いたとしても自ら相談に来ない場合も往々にしてあります。

看護師長や主任が、普段と異なる部下の様子に気をつけて、声をかけることが求められています。

部下の不調に気付くヒントは、いつもできていたパフォーマンスの低下と行動面の異常です。

メンタルヘルス不調発見のヒント

パフオーマンスの低下 生活や行動の変化
1.インシデント報告が続く
2.業務を遂行するのに時間がかかるようになる
1.表情が暗い
2.反応や行動が遅い
3.休みや遅刻が多くなる

声かけのタイミングですが、どの病気でも仕事の能率低下やミスが現れますので、これをサインとして気づくようにするとよいでしょう。

作業能率の低下に気づいた時点で必ず声をかけ、話を聴きます。

態度の変化、作業能率の低下があった後の「変な休み方」は見逃してはいけないサインです。日常業務の管理のなかでも、部下の不調に気がつくことは可能です。

たとえば、部下が遅くまで残って仕事をしているような状況が続いているときには、その理由を確認しましよう。

「いつもとちがう」がキーワードです

話の聴き方にも、いくつか基本があります。話を聴く場所は、邪魔の入らない静かな場所を選びます。聴取の内容は、「なぜそういうことがおきているか」の情報収集が目的です。

相手の発言を促して、話を聴くようにします。カウンセリングをする必要はありませんし、病気の診断ができる必要もありません。仕事の話中心だと命令口調になりがちですから、相手を心配していることを話題の中心にしましょう。

状況がはっきりするまでは激励はしない

話を聴いた後のアクションは二つあります。部下の不調の状況が十分に理解できるものであれば、様子を見ても良いでしょう。本人の様子が心配で職場で問題がある場合(ひどく悩んでいて不眠などの症状があるなど)は、専門家への受診や産業保健スタッフヘの相談を勧めます。

産業保健スタッフとの連携にもコツがあります。本人が行かない場合は、管理監督者が産業保健スタッフに相談することもできます。

「病院としては行ってもらいたいけれど、貴方が行かないのなら私が代わりに行くよ」などと伝えます。産業保健スタッフに相談する際は、どういうことが′い配で、産業保健スタッフに何を期待しているか明確にしておくと良いでしょう。

プライバシーにも配慮します

個人的な情報(家庭の事情、病名等)は、本人の了解を得てから他の者に伝えるのが原則です。しかし、「本人の状態が心配」な場面では、プライバシーよりも安全配慮義務が優先し、本人の同意がなくても、産業保健スタッフ(あるいは人事・労務担当者)や家族に連絡することができます。

健康情報の取り扱いに関して病院での取り決めを作っておくとよいでしょう。

職場環境改善とは

もう一つの役割が、職場環境改善です。管理監督者は、日常の職場管理等によって把握した職場環境等の具体的問題点の改善を図ることが求められています。

職場環境改善には、作業環境、仕事のやり方、職場組織などを改善してストレスを減らすことと、個別の部下の労務管理を通じてストレスを予防することなどが含まれます。

職場環境等の改善には、「管理監督者が日常の業務管理でストレスのサインに気づいて業務を改善する」、「産業保健スタッフがストレス調査や健康診断の結果から職場診断を行い、これに基づいて改善を進める」等のやり方がありますが、最近は労働者自らが参画する職場環境改善が注目を集めています。

これは看護師にとても向いている活動のように思われます。看護師のメンタルヘルス対策において、看護師長や主任に求められる役割を中心に、予防的視点から解説します。

組織的に看護師のメンタルヘルスを推進する主体として、師長や主任に機能していただきたい、というのが趣旨になります。

体制(人)づくり

師長を中心メンバーとするメンタルヘルス対策タスクチームを組むことをお勧めします。看護師のメンタルヘルスの課題は、看護師が一番よく知っています。

皆さんの病院における看護師のメンタルヘルスの課題は何か、どういう活動が求められていて、どのような資源が必要なのか、を検討する場を作ります。そしてそのような活動は、病院の(安全)衛生委員会の活動の中に組み込まれることが望まれます。

システム(制度)づくり

産業保健スタッフ、人事。労務と協力して、制度面の整備に関わりましょう。試し出勤制度など、復職に有用と思われる制度設計について建設的に関われるとよいでしょう。

就業規則に手は出せなくても、たとえば、復職支援においてステップ別に師長がどのように関わるかなど、看護師用にカスタマイズすることは可能です。

メンタルヘルス研修

看護師のメンタルヘルス研修を企画しましょう。キャリアや任されている役割別にストレスの要因が異なりますので、それらに合わせた研修の内容があります。専門的な事項については、院内外の専門家の助けを借りてもよいと思います。

ストレス調査の導入

ストレス調査は、個人のストレス対策にも職場の環境改善にも有用な手段となります。

ストレス調査の目的を理解して、ニーズに合わせて活用しましょう。これは、2014年の労働安全衛生法の改正により、2015年度から労働者が常時50名以上の全事業場に義務付けられることになったストレスチェックにも当てはまることです。

職場環境改善

メンタルヘルス対策というと、職場の人間関係や看護師のストレス対処方法等に注意が向きがちですが、より根本的な、予防対策としての働きやすい職場環境づくりが、取り上げられるようになってきています。

ストレスの軽減を目指し、さらには医療の質向上につながる職場環境改善にあたっては、現場の労働者が自主的に取り組むことが大切です。特に、多領域に日配りし、すぐに出来る対策に重点を置いて、グループワークで話し合い、協力しあって実施する活動が効果的であると指摘されています。

まとめ

職員の健康は病院の資産です。師長や主任は、看護師のメンタルヘルスを衛る文化を醸成し、システムを構築する柱となりましょう。師長や主任の役割を明確にしましょう。部下への相談対応と職場環境改善は管理監督者に求められているメンタルヘルス支援です。

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