看護師不足は潜在看護師復職のための職場環境改善を急務に

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職場に復職する看護師の心境

日本国内で就業している看護職員の数は約163万人(2015年、日本看護協会調べ)となっており、2006年末の約133万人に比べて30万人も増えている。なかでも看護師だけに限れば2006年の約85万人から118万人と、40%近い増員となっている。

厚生労働省の第7次看護職員需給見通しから看護師不足は厳然である

Ⅰ.就業状況
⑴ 総数(年次別・就業場所別) Total(yearly changes in the number by working places)

看護師就業者数の1

看護師就業者数その2

看護師就業者数その3

1 .就 業 者 数 Number of Employed
⑷ 看護師,准看護師(年次別・就業場所別) Nurses and Assistant Nurses(yearly changes in the number by working places)

看護師就業者数その4
看護師就業者数その4

また、厚生労働省の第7次看護職員需給見通しにおける供給見通しも平成24年時で152万人弱の予想に対して、実際の就業者は154万人弱と予想を上回っている。それから2年後の平成26年には160万人を突破、現在に至っている。にも関わらず、看護師不足は厳然たる事実として今目の前にあるのだ。

出典:厚生労働省ホームページ

高齢者医療制度の医療費時への対策は「あやふや」状態

そして、この問題は解消されるどころか、今後10年、20年でさらなる大問題に発展することが予想されている。その最大の原因が2025年問題だ。平成27(2015)年、戦後生まれの第一次ベビーブーム世代約200万人が前期高齢者となった。かつて金の卵と呼ばれ、行動経済成長期後半からバブルにかけて、良くも悪くも日本の経済を牽引してきた世代が、2025年には一斉に後期高齢者となる。

厚生労働省の推計では、2025年の高齢者人口は3500万人に達するとしており、さらにその後10年間、高齢者は増え続けると予想している。実に3人にひとりが65歳以上、5人にひとりは75歳以上という超々高齢社会が日本に到来するのである。

世代別に見た高齢者人口の推移

高齢化人口の増加にたうする看護師不足事態
出典:厚生労働省ホームページ

2025年には高齢者の5人に1人が認知症に

認知症の前段階とされる「軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)」と推計される約400万人を合わせると、高齢者の約4人に1人が認知症あるいはその予備群ということになります。

医療機関を受診して認知症と診断された人だけでもこの数字ですから、症状はすでに出ているのにまだ受診していない人も含めると、患者数はもっと増えていくと考えられます。

今後高齢化がさらに進んでいきににつれ、認知症の患者数がさらに膨らんでいくことは確実です。厚労省が今回発表した推計によれば、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みです。
認知症フォーラムドットコム認知症フォーラムドットコム

それだけではない。2012年現在、その数460万人、65歳以上の7人にひとりといわれる認知症患者は、2025年には700万人にも達し、実に65歳以上の5人に一人が認知症患者になると予想される。

しかも、高齢者の独居世帯と高齢夫婦のみの世帯数がともに3割を超え、高齢者全体の7割が一人暮らし、もしくは夫婦のみの世帯となり、高齢者医療制度にもおおきな負担がくわわる。

高齢者の一人暮らしの推移
出典:厚生労働省ホームページ

高齢者医療制度へ加え、訪問看護の需要が急増し看護師不足をさらに招く

2015年からの20年間に起こる急激な高齢化に対応するため、国は病院での介護から在宅医療、さらには地域での包括医療へのシフトを進めようとしているが、その結果、訪問看護の需要が急増し、さらなる看護師不足を招く懸念がある。

現在、看護師不足が著しいのは高齢化が進んだ地方の医療機関だが、今後は都市部で高齢者が増えることになり、地域格差による人手不足ではなく絶対的な看護職不足となる可能性がある。加えて、訪問看護の普及により看護職の雇用が拡大されたとしても、労働環境が改善されなければ離職者は後を絶たず、いつまでたっても人手不足が解消されない可能性は大きい。

24時間対応の総合介護センターが必要になる

いうまでもないことであるが、増え続ける生活習慣病などの高齢者医療において病気が完治することは極めてまれで、医療従事者も患者の家族も、出口の見えない治療を継続することになる。こうした状況に病院での介護がなじまないのは明白だが、これもまた高齢化に伴い急増する認知症が、在宅での介護・治療を困難にしている。

このような背景から、小規模事業者の多い訪問看護ステーションの機能を集積、拡大した24時間対応の総合介護センターのような存在が望まれており、結果としてさらに多くの看護職が必要とされることになる。

超々高齢社会になると、税収や保険料といった国民医療費の原資が不足し、現役世代への負担を増大させるだけでなく、経済的にも肉体的にも介護や看護をむずかしくする。近年、看護職を目指す人口は増えているというが、待遇や労働環境はあまりよいとはいえず、離職する看護職は後を絶たない。

看護師の需給バランスが限りなく100%に近付く理由は離職者の増加

看護職員の離職率は毎年11%前後で推移しており、第7次看護職員受給見通しでは離職者の数を年間約16万人と見積もっている。これに対し、新規入職者は新卒5万人、復職14万人の計19万人となり、看護師の離職者を3万人上回るとしている。このペースで進めば、平成27年には需給バランスが限りなく100%に近付くと見通していた。

しかし、現実には急速に進む高齢者の増加に看護職員の供給は追いついていない。供給される看護師の数が増えても、看護師の離職率が11%で横ばいということは、実際の離職者数は年々増えているということになる。

新卒の入職者は年間5万人ほどだが、18歳以下年齢の人口が年々減少している現状では遠からず新卒入職者(新人看護師)の数も減少に転じるだろう。すでに社会の高齢化は待ったなし、2025年問題はもう目の前まで迫っており、看護師の需給に関する厚生労働省の見通しは甘すぎたと言わざるを得ないだろう。

潜在看護師の復職を促さなければならない

一方で離職した潜在看護師は増え続けており、現在では約70万人にも上るという。こうした離職者のうち10%程度だけでも現場復帰すれば、需給のバランスはずいぶん改善されるはずだが、離職した看護師は現場に戻ってこないのが現状だ。

潜在看護師の復職の場を改善しなければならない

増え続ける看護師の需要に応えるためには、新卒看護師を増やすだけでなく潜在看護師の復職を促さなければならないが、一度離職した看護師たちは容易に現場復帰しようとしない。離職した看護師たちが戻りたいと思うような現場を多くしていかなければ、看護師不足による医療の崩壊は免れようもなく、事態は思うよりも深刻なのである。

看護師が強いられる感情労働は対価がない

「感情社会学」という研究分野を切り開いたアメリカの社会学者アーリー・ホックシールドが示した概念で、「職務が要求する適切な感情状態や感情表現を作り出すためになされる感情管理を賃金と引き換えに売ること」を指している。彼女は例として旅客機の乗客に微笑む客室乗務員などを紹介している。

日本の看護界では、看護職で看護学者の武井麻子や社会学者の崎山治男らがホツクシールドの感情労働の概念を援用し、看護師労働の感情面の解説に取り組んでいる。

それにより広まった「感情労働」は、言葉のみが独り歩きした節があり、これまではため息や深酒やバーンアウトの理由について「大変さがうまく言い表せない」「ナラティブに一から語らなければ表せずそれは面倒だから語らない」とする看護師も少なくなかつたが、それを「感情労働の大変さ」と一言で説明できる印象をもたらした感がある。

しかし感情労働という概念は、さまざまな対人サービス労働に従事する労働者に適用され、看護師労働特有の大変さを説明できるわけではないのだ。

看護師労働特有の苛烈さが大きな責任となる

あるタクシードライバーは、「笑顔も相づちも料金のうち」と自分に言い聞かせて客に接していると言う。看護業務では、感情をコントロールして表した笑顔や相づちが売り上げに直結し、それが賃金に反映される感覚は得にくく、「賃金」を「成果や評価」に置き換えたとしても、それを数値や形として確認しづらい面がある。

さらに評価する中心人物であるはずの患者には、病状や死によって評価を間えない場合が多い。

また看護職は感情管理の仕方にも正解を見つけにくいことが多く、以上のような「わからなさ」の中、感情管理を続けているのである。看護職の感情管理は商品とは言えず、感情労働は成立していない職業であるとも言える。社会学者の上野千鶴子は、著書の中で、ケア労働がもつ固有性を感情労働という概念で説明するむきを批判している。

感情労働の概念は労働としての自立や組織内での地位向上に向けての議論を錯綜させるものであり、労働における心的負担は、あえていうなら「感情労働」というより「責任労働」だと述べている。

たしかに看護師労働には、患者の命や人生の質を左右しかねない責任が重くのしかかっている局面が多く、それが大変さの核心と言ってもいいのかもしれない。

感情労働を、大変さを表す便利な言葉として使用すると、看護職のため息や深酒やバーンアウトの複合的な理由のそれぞれが見えにくくなる恐れがあるのである。

看護師を辞めたい理由、辞める理由

厚生労働省の調べによれば看護師の退職理由は「出産・育児」22.1%、「その他」の19.7%をはさんで「結婚」17.7%、「他施設への興味」15.1%と続く。

しかし、日本看護協会による現在離職中の看護師に対するアンケートでは、トップこそ「妊娠・出産」だが、以下「自分の身体的な健康状態」、「その他」をはさんで「自分の精神的な健康状態」と続く。

出典:日本看護協会 平成24年度都道府県ナースセンターによる看護職員の再就業実態調査

厚生労働省と日本看護協会で異なる離職理由だが、辞めていく看護師の本音はいったいどちらなのだろう。実は多くの看護師が日常的に「辞めたい」と思っており、「妊娠・出産」は辞めるための「きっかけ」にすぎないのではないだろうか。

看護師が辞めたいと思う本当の理由

日本の高齢社会がどれほどのものか、実感するのはどのような場面だろうか。首都圏を少し離れた郊外や地方都市で、平日の昼間に電車に乗ってみてほしい。学生やサラリーマンのいない車両を占める高齢者の乗客の多さに目を見張ることだろう。

診察開始前の病院やクリニックの待合室はどうか。整形外科はもちろん、歯科も内科も眼科も、朝早くからたくさんの高齢者が診察を待っている。それだけではない。郊外にあるファミレスやファストフードでモーニングメニューを注文しているのも、多くは高齢者である。今や、日本中どこに行っても高齢者ばかりで、病院の病棟であればなおさらである。内科病棟や整形外科病棟などはさながら老健施設かと見まごうばかりだ。

これでは看護師がいくらいても手が足りるということは望めそうもない。明らかに慢性的な人手不足であり、医師や技師などの不足も手伝って、「ブラック」とまでいわれる労働環境は一向に改善される兆しがない。過酷なシフト業務となかなか取れない休日に心身ともに疲れ果て、離職して2度と戻らない看護師が後を絶たないのは自明の理である。

日本医療労働組合連合会がまとめた「看護職員の労働実態調査」の報告書によれば、仕事を辞めたいと「いつも思う」看護師は全体の約20%、「ときどき思う」が約56%、全体の76%が看護師を辞めたいと思っている。看護師が4人いれば3人が看護の仕事を辞めたいと思っているのだ。そして「仕事を辞めたい」という割合は時間外労働が多いほど多くなる傾向にある。

看護師不足に歯止めをかけるには離職を考えさせないようにする

看護師の離職率は11%程度であり、一般の職業に比べても高い方ではない。しかし、一度辞めると2度と看護業界に戻らず、潜在看護師化してしまう看護職の割合は非常に高い。厚生労働省が約4万人を対象に行った看護職員の就業状況調査では、現在看護職員としての仕事に就いていない有資格者のうち、最初の勤務先を辞めたあと看護職に復帰していない者はなんと40%を占めている。

看護職員就業状況等実態調査結果

看護師がこれまでに勤務先を退職した回数

看護師がこれまでに退職した回数

つまり、一度いやになって現場を離れた看護職員は半数近くが2度と看護の世界に戻ってこないのである。こうした看護職の潜在化を防ぐには、やはり入職直後の新人時代から離職を防ぐ策を講じておくにこしたことはない。しかし、看護職は患者の命を預かる仕事であり、ミスが重大な事故に直結しかねない。

看護師を離職させないための指導教育する側のサポートが必要

必然的に新人に対しても厳しく向き合わざるを得ないことが多く、厳しい指導を受けた経験の浅い看護師は責任の重さを実感すると同時に、厳しい上司や先輩についていけず離職を考えることも多い。かじ取りの難しい職場ではあるが、新人の離職を防ぐには指導教育する側にも忍耐と工夫が求められるのである。

いかに厳しい仕事とはいえ、新人看護師に対して叱ってばかりでは、萎縮したり、過度に緊張を強いることになってしまい、いかに優秀な人材であってもその人のもてる力を十二分に発揮することが難しくなる。

また、いつも大きな声で叱ってばかりいると、新人だけでなく周囲にも緊張感を与えてしまい、しかる側の看護師自身が周囲から敬遠されてしまうこともある。さらに、指導担当の看護師が不在の場合に、新人看護師は緊張感から解放される代わりに不注意からミスを犯し、思わぬ事故に発展するリスクも潜んでいる。

動物は叱られるとストレスを感じ、コルチゾルやアドレナリンを分泌して交感神経系が優位となる。これを続けているとストレスのもととなる対象、つまりいつも自分を叱る相手を見ただけで緊張してしまい、パニック状態に陥るようになる。これがヒトであればなおさらである。

新人看護師には仕事への意欲を増すモチベーションをアップが大切

特にゆとり世代以降の若者たちは、親からも教師からも厳しく接せられたことがなく、本能的に「ほめて伸ばされたい」と考えており、実際、叱るよりもほめてあげた方がやる気を喚起することにつながる。

新人看護師は、年齢的にもキャリアからしても自己のアイデンティテイが確立されておらず、人間として、看護師としての自分を認めてもらえることは大きな喜びであり、仕事を継続していく上での動機づけとなる。新人看護師の離職を防ぎ、モチベーションをアップしてやるためにも「ほめる」という行為は重要なのだ。

ただし、ほめ方にもセオリーがあるので注意されたい。過剰な期待を頻繁に口にしたり、的外れなほめ方をすると、相手には重圧であったり、自惚れを起こさせることにもなりかねない。幼い子どもやペットと同様、ほめるときは具体的な事実に基づいてその場でほめることだ。

具体的事実に基づいてほめる

たとえば、なんのきっかけもなく突然[あなたはよくできる人ね」と言われても、看護師としての自分のどの行動が評価されたのか本人にはわからない。こちらは日ごろの仕事ぶりや行動をほめたつもりでも、相手にはなんのことかさっぱり伝わらないこともある。

ほめるときには、「○○さんはごきげんどうだった?あの患者さん、あなたはとても気の効く看護師さんだって、いつもほめてるわよ」「あなたの巡回の後はいつも病室内がきれいに整えられていて感心するわ、ありがとう」 というように、具体的な事実や仕事についてほめるべきである。

タイムリーにほめる

たとえ「良い仕事をした」とほめられても、時間が経ってしまうとほめ言葉はリアリティを失ってしまう。ほめられた方も素直に喜びや感動を得ることができないどころか、下手をすると、何か面倒な仕事を頼まれるのではないか、と勘ぐられかねない。「タイムリーさ」というのは、ほめるときにも、叱るときにも極めて重要なファクターなのだ。

さらに、タイムリーにほめることの重要性にはもうひとつの理由がある。それは、看護師としての経験が浅い新人は、常に自分の技術や振る舞い、あるいは判断が正しいのかどうか迷いがある。さらにいえば、自分の仕事ぶりがどのように評価されるのかを気にしており、周囲からの指摘やフィードバックを常に求めているのである。

3日前の忘れかけたことをほめられるより、たった今自分がしたことについて承認してもらうことのほうが、余程重要だし、うれしいに違いない。

適切な場所でほめる

例えば、カンファレンスを効果的に進めることができた看護師に対しては、後からほめるのではなく、その場で「今日のカンファレンスは皆の意見を引き出しながら論理的に進めてくれたので、成果があったと思います」というように、ほかの参加者の前でほめてあげよう。みんなの前でほめられるというのは、非常にモチベーションがあがるものだ。

ただし、新人看護師に対して嫉妬心を抱くようなスタッフがメンバーにいる場合には注意したい。看護師に限らず、新人同士に切磋琢磨してほしい、という思いから大勢の前で一人だけをほめると、人間関係がぎくしゃくしたり、いじめに発展する可能性もある。人間は嫉妬をする生き物であるということを忘れてはいけない。

また、いつでも行動したその場所でほめればよい、というわけではない。患者や家族とのトラブルなどで、それを新人看護師がうまく収めることができたとしても、絶対に患者や家族の目につく場所でほめたりしてはいけない。患者や家族はもちろんのこと、人間に対する対応に正解はなく、同じ対応をしても相手の反応は千差万別であり、同じ人物であってもその時々で反応は異なるものだ。そうしたことも言い含めつつ、1対1のフェイス・トゥ・フェイスでほめてあげよう。

看護師も職業人としての成長を長期的に見守る必要がある

人材育成には、自立を促しつつ、過ちは厳しく指導し、時には長所を見つけてほめてやり、社会人として、あるいは職業人としての成長を長期的に見守る必要がある。育てられる側に我慢はつきものだが、実のところ、育てる側にはその何倍もの忍耐力が必要なのだ。

戦時下の日本で敗戦を見越す先見性と、類まれな人間力で多くの部下から慕われた山本五十六海軍大将の人材育成に関する名言はつとに有名だ。

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば人は動かじ

実はこの名言には続きがある。

話し合い、耳を傾け承認し、任せてやらねば人は育たず

やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず

 

どうだろうか。看護部長や看護師長には、ぜひとも座右の銘としてもらいものだ。

仕事を辞めたいと思うこと

出典:日本医療労働組合連合会「看護職員の労働実態調査報告書」から

医労連がまとめた「看護職員の労働実態調査報告書」によると、看護師が退職したい理由は「人手不足で仕事がきつい」が44%でトップ、以下「賃金が安い」34%、「思うように休みがとれない」33%、「夜勤がつらい」32%と続く。(回答は3つまで選択の複数回答結果)実際に退職のきっかっけとなるのは結婚や出産だが、実は多くの看護師が仕事の悩みから辞めたいと思っているのだ。

やめたいけどやめられない

しかし、実際の離職率は11%前後で横ばいが続いている。離職者の実数は増えているが急増というほどでもない。仕事や自身の健康に不安や不満を抱えながらもやめられない理由とは何なのだろう。

同じく日労連「看護職員の労働実態調査報告書」によれば、疲れが翌日に残ったり休日でも回復しない「慢性疲労」を訴える看護職は実に74%にも上る。加えて、仕事での強い不満、悩み、ストレスがあると回答しているのは67%で、自身の健康不安を訴えている看護職員は全体の7割弱を占めている。

健康不安やストレス、辞めたいと思う気持ちなどはいずれも、時間外労働時間や休日の少なさ、あるいは変則的な勤務時間に相関している。これらの原因はまぎれもない「人手不足による過重労働」なのである。職場には人手不足で辞めにくい雰囲気が醸成され、さらに経営者や上層部も簡単にはやめさせてくれない現実がある。

しかし、もっと重要なことは人口に対して多すぎる病院と病床数に対して少なすぎるスタッフ数なのだ。加えて、未だに医師中心でコメディカルへの権限移譲が進まず、チーム医療の体をなしていない医療体制。今や崩壊寸前の日本の医療は、最前線の現場でがんばる医師と看護師たちスタッフの誇りと責任感だけが支えている。

看護師の健康不安

看護師が仕事を辞めたいと思う理由は様々だが、突き詰めればその多くは自身の健康問題であり、その原因は人手不足による過重労働だ。人手不足は看護師だけでなく、医師やほかのスタッフも同様で、医師の時間外労働は100時間超えがざらにみられるような状態だ。

このような環境では医師も看護師も十分な医療を患者に提供することができないし、医療ミスや重大なインシデントが起こる可能性もある。倒れそうなほどの多忙と、のしかかる重圧とに押しつぶされそうになりながら、医療スタッフは日々の仕事に臨んでいるのだ。

肉体的にも精神的にも過酷な職場環境は、看護職のメンタルにも大きな影響を与えている。日本看護師協会では、看護職のメンタルヘルスケアに組織で取り組むよう働きかけている。

看護師のメンタルヘルスケアに関する国内の動き

『労働者の受けるストレスは拡大傾向にあり、職場においてより積極的に心の健康の保持増進を図ることが、重要な課題となっています。厚生労働省は2006年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針(2015年改正)」(以下、指針) を策定しましたが、この指針を基に、さまざまなメンタルヘルス対策が進められています。また、「第12次労働災害防止計画(2013年(平成25年)発行:平成25~29年度が対象)」では、重点対策の1つにメンタルヘルス対策が挙げられ、対策に取り組んでいる事業場 の割合を80%以上にすることを目標としています。』日本看護協会

多忙を極める医療現場では、医師も、看護部長や師長などの上層部も精神的に不安定になり、看護師や看護助手に対して必要以上に厳しく接することが多くなる。さらにエスカレートしていじめに近い状況が生まれることも少なくない。こうなると患者の側にも不安や不満が生まれてくるのは当然で、モンスターペイシェントやクレイマー的な患者が現れる温床となる。

また、セクハラやパワハラも看護職のメンタルを苛む大きな要因となっている。看護師の約13%がセクハラを、27%がパワハラを受けたことがあるといい、セクハラをするのはその多くが患者であり、パワハラは上司と医師が大半を占めている。

過酷な過重労働に加えて、日常的にセクハラやパワハラを受け、メンタル障害で休職する看護師も多く、アンケートでは回答者の3割が、自身の職場にメンタル障害で休んだり治療を受けている職員がいると回答している。

看護師を辞めたひとたち

看護職を辞していくひとたちの多くは結婚や出産などを直接のきっかけとしているが、本当の離職理由は職場環境によるものなので結婚や出産後の復職率は低い。離職理由について、看護師側と看護師を管理する側で大きなずれがあることが復職率を低迷させている原因と考えられる。

ナースセンターの潜在看護職員調査によれば、「勤務時間が長い・超過勤務が多い」を離職理由に挙げているのは、看護師側では22%だが、管理者側でそのように認識しているのはわずか0.1%だ。これでは離職した看護師たちが「戻りたい」と思わなくて当然と言えよう。

反面、現在離職中の看護師と、同じく管理者側に「なぜ就業していないのか」理由を尋ねてみると「勤務時間が長い・超過勤務が多い」と回答した看護師が13%なのに対し、管理者側は約17%がそのように回答している。これは、管理者側が「辞めたら戻ってこない」環境であることを認識しつつ、勤めているうちは「辞めないだろう」と高をくくっていることの現れではないだろうか。

看護師を辞めたあとは

看護師のバーンアウト症候群(燃え尽き症候群)のリスクは医師の約2倍といわれている。バーンアウト症候群とは極度の緊張とストレスに過労が加わると起こる心の病であり、情緒的消耗、脱人格化、個人的達成感の減退を示す。これはうつ病に通じる症状である。看護師は常に緊張にさらされると共に、仕事や職場環境から強いストレスを感じている。ここに過重労働による慢性疲労が加わりバーンアウト、メンタル不全へとつながることが多い。

また、患者やその家族からのクレームに対しても76%がストレスを感じるとしており、そのうちの26%は強いストレスを感じている。このような環境下で看護師たちの約6割が鎮痛剤や睡眠剤、安定剤などなんらかの薬を常用している。なかには抗うつ薬の使用も見られ、精神的な病を抱えながら患者の看護にあたっているケースも珍しくない。

また、半数以上の看護師が全身のだるさを訴えている。イライラや憂うつな気持ち、いつも眠いという回答もそれぞれ3割を超えている。これでは一度離職したら看護師に戻りたくても戻れないのではないだろうか。

それでもやっぱり看護の仕事が好き

看護師に看護の道を選んだ理由を聞くと多くの人が、自分や身内が病気などで治療を受けた際の看護師への感謝の言葉を口にする。また、母親が看護師だったという人も多い。いずれにしろ、看護師を志す人たちの多くは社会の役に立ちたい、人のためになにかしてあげたい、という思いを胸に秘めている。

また、現役の看護師として患者や家族からの感謝の言葉や、懸命の看護によって回復した患者が元気に社会復帰していく様にやりがいと達成感を覚えているものであろう。やはり看護師は看護の仕事が好きなのだ。ナースセンターの潜在看護職員調査によれば、離職中の看護職のうち77.6%が復職を望んでいる。

看護師への復職の道

過酷な業務に携わり、少なからず心身を疲弊させた看護師たちが結婚や出産を機に辞めていく。おそらく、辞めていくときに2度とは戻るまいと心に決めたであろう彼女たちがそれでも看護の道に戻ろうと決めるとき、そこには何があるのか。

ナースセンターの潜在看護職員調査によれば「社会参加したい」53.2%、「将来のための経済的準備」47%、「看護師としてのやりがいを再認識したから」35.5%となっている。また、「その他」11.6%の中には「経済的な理由」のほかに「看護が好き・やりがいを感じる」という理由が多く見られたという。

こうした復職を望む看護師たちだが、以前のような職場に戻りたいと思わないのは当然だろう。離職中の潜在看護師たちはどのような復職の道を望んでいるのか。

看護師に戻るなら

ナースセンターの潜在看護職員調査によれば離職中の看護師が復職する職場として希望する第1位は入院設備のないクリニックで全体の約半数を占めている。無床のクリニックならば夜勤がなく祝祭日は休みのところが多い。しかし、クリニック経営は経営者たる医師の経営手腕によるところが大きく、開業する地域性や所得層、診療科目にも左右されやすい。

第2位は急性期の病院で35%を占めている。離職前の職場環境が比較的良好だったのか、あるいは「今度こそ」という思いでリベンジに挑む気持ちなのだろうか。3位は30.6%で「検診センター・労働衛生機関」となっている。以下、介護療養型医療施設、自治体の保健センター、企業の健康管理部門、訪問看護ステーションと続く。

看護師に戻るために

看護師に戻りたいと望む離職者のうち、未婚者は常勤の正規職員を望むのに対し、既婚者は嘱託を含む非常勤を希望する傾向が強い。雇用する側の病院や各種医療機関にも多様な勤務形態が要求される時代になってきた。雇用側には看護師が戻りたいと思える職場環境を整えるとともに、どのような看護師を希望するのか明確にすることも求められるだろう。

逆に言えば、看護師のほうにも漠然とした仕事観ではなく、雇用形態や勤務時間、仕事の内容や今後のスキルアップについて明確なビジョンが求められる時代に変わりつつある。嘱託やパート雇用についてもスーパーや工場勤務のように「時間がきたので帰ります」とはいかない。

短時間の正規職員、嘱託、夜勤専従、さらに訪問看護など勤務時間や内容について、事前によく調べ、雇用側と意思の疎通を図っておかないと「こんなはずではなかった」となりかねないので注意しておこう。

まとめ

これからの看護師に求められるものとは

これまでの日本の医療体制は医師にすべての権限が集中しているため、医療チームを組んでも医師にのみ業務が集中しがちであった。厚労省ではようやく看護師をはじめとするコメディカルへの権限移譲を進め始めたが、実態は人員とともに教育が不足している。移譲された権限を実施するスキルに欠けているのである。

そこで脚光を浴びるのが専門看護師と認定看護師なのだが、専門大学卒の看護師の割合はまだまだ低い。医療機関での教育を充実させるとともに看護師自身にも積極的にスキルアップに取り組む姿勢が求められるだろう。

また、日本中が不況にあえいだリーマンショック後には多くの病院経営が破たんし、廃業に追い込まれるクリニックも多発した。ようやく日本経済は回復の兆しを見せ始めたが、まだまだ好況感を実感するに至ってはいない。

さらに、高齢化に伴う高齢者医療制度の医療費の増大を受けて、診療報酬のマイナス改定はとどまるところを知らない。今、病院には経営手腕が求められ、そこに働く看護職員にもコスト感覚が求められるのは当然のことだろう。

今、看護師には、医師から移譲された職務権限を自ら判断し実践できるスキル、医師や他のコメディカルと治療方針について意見を交わすことのできるコミュニケーション能力、日々の業務を病院経営と結びつけて考えられるコスト感覚が求められている。変わりゆく看護業界の中で自立できる看護師だけが生き残れる時代なのかもしれない。

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