看護師の夜勤の過酷さは健康だけではなく家族との絆をも破壊する

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看護師の夜勤

看護師の夜勤の仕事が過酷な理由のひとつは夜勤・交代勤務があることです。

医療が高度化し、高齢患者が増え、労働密度は昼も夜も変わらないのに、夜間の看護師人員は縮小される。そのうえ、残業が増え、勤務が終わって次の勤務に就くまでの間隔、時間は短くなる一方なのだという。

夜の病院は看護師の戦場のようなものです

人手が少なくなる夜は、ナースコールはほとんど鳴りっぱなし。「廊下はできるだけ静かに歩いてください」と書いてある張り紙の横を、すごい勢いで走っていくのです。

関西地方の国立病院機構の医療機関で働くカオリさん(30歳代、仮名)の勤務は原則、日勤が午前8時~午後4時45分、準夜勤が午後4時~午前0時45分、深夜勤が午前0時~午前8時45分。

看護夜勤・交代勤務は、定時に退勤できることはまずない

病院が収益を上げるため、入院患者の平均在院日数を短くする方針を打ち出し、患者の入れ替わりが激しくなってからは、出勤時も定時の時間より1時間以上早めに出なければならなくなりました。

こうした時間外労働の半分以上はサービス残業です。

看護師の夜勤は、よく「日勤1深夜勤」「準夜勤1日勤」の連続勤務がつらいといわれる。勤務と勤務の間隔が短く、十分に休めないからだ。

夜勤勤務に向かう看護師

カオリさんの場合も、これらの勤務間隔はいずれも7時間15分しかない。そのうえ、定められた勤務前後の残業が常態化しているため、実際の間隔はもっと短くなります。

最近では5~6時間しかないことも珍しくない。

「私にとってとくにしんどいのが、日勤1深夜勤です。日勤の残業が終わって病院を出るのが夕方6時くらい。その後、買い物や子どもたちの夕飯の用意、洗濯をすると、結局、一睡もできないまま午前0時からの深夜勤に突入しなくてはならないこともあります。私は体質的に寝つきが悪くて、夜勤中の仮眠の時間もなかなか取ることができないので、日勤1深夜勤が終わった後はいつも、ふらふらです」

カオリさんはこうした連続勤務のとき、とくに夜勤の時間帯に入ると、首根っこをグッと押さえつけられるような重圧感と頭痛を覚えるようになったという。

あるとき、不安になり、職場で血圧を測ってみたところ、最高血圧が200近くあった。夜勤を免除してほしいと師長に相談したが、取り付く島がない。

診断書があれば、対応してもらえるはずと考え、同じ病院の医師に頼んだが、医師は病院側に気兼ねしたのか、遠まわしに断られた。

高血圧は生活が不規則になる夜勤仕事の典型的な健康被害のひとつだ。カオリさんはその後も夜勤になると、同様の頭痛に教われ、血圧が上がってくるのが自分でもはっきりとわかったという。

以前、高血圧による脳出血で倒れ、後遺症を負ってしまった職場の先輩看護師のことを思い出し、恐ろしくなった。

「私も先輩看護師のように倒れないと、夜勤を辞めさせてもらえないんか。倒れたら、辞めさせてもらえるのか。いっそのこと倒れてしまったらいい」

そう思いつめたという。

最後は、子どものかかりつけのクリニックに駆け込んだ。医師は「どうして、勤め先で書いてもらえないの」といぶかりながらも、高血圧症との診断書を出してくれました。

おかげで、夜勤のない職場へ異動することはできたが、月収は5~6万円のダウン。家計を考えると辞めるわけにはいかず、今も、降圧剤を飲みながら働いています。

看護師の夜勤が蝕むのは健康だけではない、家族との絆をも破壊しかねない

カオリさんの同僚エリカさん(30歳代、仮名) の自宅には、居間や寝室の壁に複数のこぶし大の穴が開いている。エリカさんが家事や育児を手伝ってくれない夫に怒りを爆発させ、殴った跡だという。

エリカさんには二人の子どもがいます。

一人目を出産したときは夜勤のない職場に異動できたが、人手不足が進むなか、二人目の出産時は異動の希望はかなわなかった。

産体が明け、職場復帰すると同時に夜勤仕事に組み込まれるようになると、生活は一気に不規則になりました。

エリカさんによると、年下の夫は家事はまるでだめ。

「夜中になっても洗濯物を取り込んでいないとか、ゴミの日なのに汚れたオムツを出していないとか。些細なことなのですが、夜勤明けでくたくたになって帰ってきたときだと、『あれも、これもやってくれてない』とイライラばかりが募ってしまって……」

当時は、激しく夜泣きする子どもを挟み、毎晩壮絶な夫婦喧嘩を繰り返したという。

長時間の夜勤で体の具合が悪くなった看護師

そんな窮地を救ってくれたのは夫の母親だった。夫婦の家に住み込み、子育てや家事を手伝ってくれました。

今、落ち着きを取り戻したエリカさんが当時を振り返る。

「毎日が修羅場でした。夫には、取り返しのつかないような酷いことをたくさん言いましたし、私のほうからは手も出ました。あらためて思い出すと、夫はよく許してくれたなあと、冷や汗が出ます。それにしても、私は義母に助けてもらいましたが、家族の助けが得られない人は、どうやって乗り切っているんだろうか……」

看護師の夜勤で辞職した潜在看護職員の数を日本看護協会は把握している

「妊娠、出産」が最も多く、次いで「結婚」、「勤務時間が長い。残業が多い」、「子育て」の順番で「看護師の夜勤の負担が大きい」は5番目に多かった。

また、正確な統計はないが、看護師の離婚率は高いともいわれる。経済的に自立していることもひとつの要因かもしれないが、夜勤、交代勤務と家族との生活時間を両立させることの難しさが影響している可能性もあります。

看護師の年齢階級別就業者数割合

看護師の勤務形態は、二交代か、三交代か、割れる賛否

今、こうした夜勤・交代勤務を取り巻く環境にある動きがある。「三交代」勤務から「二交代」勤務への切り替えです。

従来の三交代が「日勤」「準夜勤」「深夜勤」なのに対し、二交代では、勤務形態を「日勤」と「夜勤」の二種類に分ける。

拘束時間は、日勤と夜勤ともに12時間とする形態もあるが、主流は日勤を8時間、夜勤を午後4時~翌日午前8時など16時間以上の長時間勤務とするパターンです。

二交代は1人あたりの夜勤回数を減らすことができるため、病院にとっては人件費を削減できるほか、出退勤が公共交通機関の利用できる時間帯に当たるため、交通費などの経費も抑制できます。

また、患者にとっては看護師の顔ぶれが変わる回数が減るとされ、看護師にとっても準夜勤と深夜勤を1度にこなすことになるため、夜勤回数が減り、休日が増えるというメリットがあるといわれます。

看護師の夜勤勤務時間が16時間という長時間、連続して働くようなシフトは世界的にも例がない

健康や看護業務の安全性への影響を懸念する声は根強く、看護師の現場でも、二交代と三交代をめぐる賛否は割れている。

まずは二交代賛成の声から。

東京都内の民間総合病院に勤務するマリさん(35歳、仮名)は、2010年春から導入された二交代を「家族団らんの時間が増えました」と歓迎する。

二交代では、「日勤1深夜勤」や「準夜勤」のとき、夫や子どもが学校から帰ってきてから眠るまでの時間帯をゆっくりと一緒に過ごすことができなかった。

これに対し、二交代なら夜勤日以外は夕方から夜にかけて家にいられる。多い場合には月10回だった夜勤は、二交代導入後は半分に減ったという。

「まとめて働いて、まとめて休むという感じです。急性期病院なので、確かに二交代の夜勤明けは抜け殻のようになってしまいますが、生活全体にメリハリがつくので、今のほうが心身ともに状態はいいみたいです」

マリさんにとって一番よかったことは、小学校低学年になる子どもが精神的に落ち着いたことです。

以前は夜勤が続くと、出勤前にぐずったり、指しゃぶりが復活したり、酷いときはおっぱいを欲しがるといった「赤ちゃん帰り」が見られたが、二交代になってからは、ぴたりと治まった。

職場でも今のところ、二交代のせいで体調を崩した、ミスを犯したといった事例は出ていないという。

二交代導入に伴い、残業を減らし、仮眠を確実に取ることを申し合わせたため、20歳代の独身の後輩たちの間でも「プライベートな時間が増えた」「(英会話や水泳など)稽古事に通うことができるようになった」「合コンの時間に遅れずにすむようになった」など、二交代はおおむね好意的に受け入れられているという。

「残業時間が減ったので給与は年間で20万円ほど下がりそうです。でも、勤務時間が減ったのですから、仕方ないです。私にとっては、家族団らんが何よりの幸せですし、そのことが仕事へのやる気にもつながっています」

二交代賛成に対して反対の声は。

夜勤明け、自家用車で帰宅途中だったトモコさん(32歳、仮名)はその瞬間、後方車のクラクションが別世界の音に聞こえたという。時間にしたらものの数秒だったのかもしれないが、信号待ちで一瞬、うたた寝をしてしまったのだ。

じつは、帰宅途中の「事故」はこれが初めてではない。

半年ほど前は、ハッと気がついたら、水田の間を通る道路の路肩に停車していたことがあった。交通量の少ない道路だったため大事には至らなかったが、彼女は不安そうに打ち明ける。

「マイカー通勤なんですが、最近、夜勤明けはへとへとになってしまって、どうやって家に戻ったか、記憶がないことがあるんです」

トモコさんが勤める国立病院機構の職場では、3年前に二交代を導入。

午後4時半から翌日の午前8時半までの16時間勤務だが、実際には午後3時半には出動して新規入院患者の基礎データなどを頭に入れなければならず、翌朝は書類仕事が午前10時近くまでかかる。

結局、20時間近くを病院で過ごすことになります。

それでも、独身のトモコさんにとって、夕方以降に余裕ができることはうれしいことだった。夜勤明けでも、翌日が休みの場合はデートや趣味を楽しむこともできた。

しかし、順調だったのは最初の1年まで。最近は疲れが取れなくて困っているという。

「夜勤明けは、顔も洗わずにベッドに倒れこむんですが、目が覚めると翌日の早朝になっていることがあります。20時間近く『爆睡』してしまうんです。そういうと、40歳代の先輩看護師からは『続けて眠れてうらやましい』と言われるんですが、疲れが取れたというよりは、眠ったはずなのに、かえって疲れたなあという感じなんですよね」

二交代と関係があるかわからないが、最近、同僚の一人は生理が止まってしまった。

「ただ、なんとなく、私たちの身体のどこかで異変が起きているような気がしてならないんです」

看護師が夜勤後のヒヤリハットは確実に増えた

トモコさんによると、三交代のときは準夜勤から深夜勤に引き継ぐ午前0時ごろは、それぞれの勤務の看護師が残業をしたり、早めに出勤したりするため、前後3時間程度ではあるが、人手が増えた。

ところが、二交代になってからは、一晩を通してきっかり3人体制になった。このため、一人当たりの業務は過密になったと感じるという。加えて、16時間夜勤は長時間にわたり拘束されるため、交代要員を見つけづらいのです。

ヒヤリハットを回避する看護師研修

参考:国立病院機構 東京医療センター

体調を崩しても代わってくれる人が見つからず、出勤せざるを得ないことが多い。

「仕事量が増えたうえ、体調も悪いとなると、集中力が落ちてしまいます。明け方近くのうっかりミスが増えています」

とはいえ、三交代に戻りたいとは思わないという。

看護師不足が根本的な問題

この根本の問題を解決しないと、二交代でも、三交代でも結果は同じことです。

医労連による2010年度夜勤実態調査では、三交代と二交代の職場の割合は、三交代74,5%に対して二交代25,5%だった。

圧倒的に三交代が主流だが、二交代は2005年度の8,3%と比べると17,2ポイントも増えており、その割合はじわじわと高まっている。二交代が増える背景には、病院にとって経費削減メリットがあるためと思われる。

医労連は労働強化につながるなどとして二交代導入には反対の立場です。

日本看護協会も

「一概に問題とは言えない面もあるかもしれないが、現在の看護人員を増やさないまま、急性期病院のような業務密度の高い職場で16時間にわたる長時間夜動を導入すると、医療事故につながりかねない」(広報部)

として、二交代から三交代へのなし崩し的な移行については慎重な姿勢を見せています。

二交代か、それとも三交代か。人手不足という根本的な問題を置き去りにしたまま、シフトの組み換えによる小手先の「経営効率化」が進んでいる。

1.夜勤の看護師の弊害~寝付きが悪くなる睡眠禁止帯

看護師の夜勤は心身にどんな影響を与えるのか。

関係団体などがさまざまな調査を行なっているが、それらの多くは現役の看護師が対象です。

例えば、医労連の調査では7割の看護職員が慢性疲労を訴えているとの結果が明らかになっているが、こうした調査の対象者は慢性疲労を抱えながらも、何とか現場に踏みとどまっている、いわば「生き残った労働者」です。

看護師の心と体の健康を崩して職場を去った看護師の声は

こうした調査には反映されていないが、実際の健康被害はもっと深刻だと思われるます。そうしたヘルシー・ワーカー・エフェクト(健康な労働者の効果)」といいます。

ヘルシー・ワーカー・エフェクトとは?
労働者の健康についての多くの研究が,(その職業にともなうなんらかのリスクへの職業曝露の効果を評価するために)特定の職についている労働者の死亡率を一般母集団の死亡率と比較しているが,一般母集団は健康状態が悪いために働けない人を含んでいるので,労働者の方が死亡率がかなり低くなるのは当然。つまり,この直接比較は,労働者の死亡率が系統的に低くなる向きのバイアスを含んでいる。意味のある比較にするには,曝露の異なる別の職種の労働者と比較しなければならない。「研究デザインにおけるバイアス(偏り)」専門用語

 

看護師の夜勤の是非を論じるには、ヘルシー・ワーカー・エフェクトによる影響を受けない客観的なデータが理想的だ。夜勤が心身に与える影響を、科学的に明らかにすることは可能なのか。

神奈川県川崎市にある財団法人。労働科学研究所の慢性疲労研究センターで主任研究員を務める佐々木司さんは、夜勤・交代勤務が身体に与える影響や、慢性疲労と睡眠の関係などについて調査、研究しているほか、海外の研究成果を紹介、普及する活動に取り組んでいる。

労働科学研究所とは、労働者の労働条件や健康状態、職場環境を改善するための研究のほか、労災防止や安全、衛生管理のための講習会や研修会の企画などを手がける民間の研究施設です。

もとは、繊維メーカー大手・倉敷紡績(クラボウ) の大原孫三郎社長(当時)が、1921年、労働者の処遇改善を目的に設置したのが始まりなのです。

看護師です。
「試用期間」で過重労働を強いられ、1ヶ月、一日10時間労働。休みは日曜日と木曜日の午後だけ。連続勤務を終えた帰宅途中、長時間労働による極度の心身の疲労と睡眠不足により 不眠症になった。試用期間を設定し、利用して過重労働に追い込む。職安の求人とは全然違う。給与も7時間分しか出なかった。家族経営の病院で退職したほうがいいでしょうか? 知恵袋

現在の看護師の夜勤・交代勤務を科学的な視点から見ると問題が多い

これまでの海外での研究結果によると、人間には一日のうち午前中と夜の二回、眠気が弱まる「睡眠禁止帯(覚醒維持帯)」といわれる時間帯がある。このうち、より目が冴えるのは夜のほうで、時刻は午後七時ころだという。

人間はこの時間帯に眠ろうとしてもなかなか眠れないとされるが、三交代勤務の看護師の場合、「日勤1深夜勤」の勤務の間にこの睡眠禁止帯が含まれます。

日勤の後、家事などを終えて、いざ仮眠を取ろうとする時刻はだいたい午後7時すぎとなり、まさに睡眠禁止帯にぶつかってしまいます。日勤1深夜勤は看護師の間でも最も不人気な連続勤務になります。

彼らが「仮眠が取れなくて身体がつらい」と嘆くのは、家事などに追われて物理的に仮眠時間が取れないという事情もあるが、一方で、生理的に元来、この時間帯はなかなか寝付けない時間帯でもあります。

また、「日勤1深夜勤」「準夜勤1日勤」など勤務と勤務の間隔が8時間程度と短いことも、睡眠の質の観点からみると、好ましくないといわれています。

このように一部の勤務間隔を短くして、代わりに連続して休日を取る働き方、言い換えると「まとめて働き、まとめて休む」働き方を「圧縮勤務」と呼びます。

圧縮勤務は「フレックスタイム」「時差出勤」などと並び、働き方の選択肢のひとつとして、一般企業でも取り入れているところがある。しかし、看護師には、そうした選択の自由があるわけではなく、仕事の性質上、圧縮勤務に就かざるを得ない。

看護師本人の希望とは無関係

強制的に圧縮勤務に組み込まれるような場合は、眠りにつく前に「8時間後は勤務だ」というプレッシャーが高まり、その際の睡眠中はストレスホルモンの値が高くなるなど疲労が回復しづらい「注意睡眠(睡眠不安)」になってしまうとされています。

過酷な夜勤・交代勤務を乗り切るには、いかに効率よく眠り、疲労を回復するかが鍵です。

しかし、実際は、勤務と勤務の間に眠気が弱まる睡眠禁止帯が含まれ、寝付けたとしても質の悪い睡眠になってしまう。看護師の勤務シフトは身体の仕組みから見ても健康を害しやすい形態になっています。

2.夜勤の看護師の弊害~高まる発がんリスク

佐々木さんによると、日本ではまだあまり認識されていないが、すでに欧米などでは夜勤・交代勤務とがん発症との因果関係が広く知られています。

男性の場合は前立腺がん、女性は乳がんを誘発するとされ、夜勤業務に就く女性労働者の乳がんリスクは平均に比べて1,5倍との研究データもあります。

夜勤をする看護師に伴う発がんのメカニズム

夜間に蛍光灯などの人工光を浴びると、ホルモンの一種で、本来なら夜間の眠っている間に生成される「メラトニン」の分泌が抑制されます。

メラトニンには抗酸化作用や発がんを抑える作用があると同時に、乳がんや卵巣腫瘍などのリスクを上げる女性ホルモンの一種「エストロゲン」の分泌をコントロールする働きがあるとの説もあります。

また、このエストロゲンは人工光の下では、生成が促進されることがわかっています。

海外の調査では、常に日勤に従事している人と、夜勤・交代勤務に就いている人の、夜間の唾液中に含まれるメラトニン量を比較したところ、日勤者は1ミリリットル中11,9ピコグラムだったのに対し、夜勤・交代勤務者は同8,3ピコグラムで、夜勤労働者のほうがメラトニン分泌量が少ないことが証明されました。

つまり、夜間に人工光を浴びる夜勤労働者は抗がん作用のあるメラトニンが減り、代わってがんを活性化させるエストロゲンが増えてしまう(男性の場合は同様のメカニズムで男性ホルモンの「テストステロン」が増える)。

この結果、夜勤に従事する女性は乳がんを、男性は前立腺がんを誘発するリスクが高まるというわけなのです。

こうした科学的なデータを受け、世界保健機構(WHO)の外部組織「国際がん研究機関(IARC)」は2007年、夜勤労働と発がんの因果関係について「おそらく発がん性がある」と認定した。

これは、因果関係を証明した科学的根拠の確実性を5段階で評価したレベルのうちの、上位から2番目にあたり、喫煙者やアスベストを扱う職場で働く労働者が該当する「発がん性がある」という最高レベルに次ぐ水準です。

夜勤・交代勤務と発がんの因果関係が科学的に高い確度で裏付けられたことを意味する。

すでに、デンマークでは元夜勤労働者の労災認定を開始。

「週1回以上の夜勤を20年以上続け、ほかに特別な危険因子がない」などの条件に合致したうえで、乳がんにかかった労働者を対象に補償金の支給を始めた。

該当者の多くが看護師や客室乗務員だという。

佐々木さんは、

「IARCの認定やデンマークの取り組みに対しては、欧米でも関心が高まっていて、メディァなどでも大きく報じられました。それに比べると、日本での関心はまだまだ低い」と指摘する。

3.夜勤の看護師の弊害~脅かされる業務の安全性

過酷な夜勤は看護師の健康だけでなく、業務の安全性をも脅かす恐れがある。海外の研究結果のなかには、夜勤中の作業効率は酒気帯び状態のときと同じレベルだとする報告もある。

佐々木さんによると、これは、「眠気」を血中アルコール濃度に換算して測るというユニークな実験で、オーストラリアの研究者によって行なわれたものです。

実験では、パソコン画面などの軌道上を動く光の点を追っていく単純な「トラッキング作業」を、一方はアルコールを飲まないで午前9時から夜間にかけて24時間以上連続でこなすグループ、もう一方はアルコールを飲みながら作業をするグループに分けて、その成績を比較する。

この結果、アルコールを摂取しないグループの作業成績は午後9時をピークに下がり始め、午前7時に最も低くなる。

彼らの作業成績を、アルコールを摂取したグループの血中アルコール濃度と対照させると、午後11時以降の成績は、日本の酒気帯び運転の基準に当たる血中アルコール濃度0,03%のときの成績とほぼ同じであることがわかった。

成績はこの時間帯以後も下がり続け、相当する血中アルコール濃度は午前七時には同o,09%近くまで上昇することがわかった。

この研究により、アルコールを飲んでいないグループの夜勤時間帯における作業効率は、アルコールを飲んだときの状態と同じくらい低下することが科学的に証明された。

看護師は夜勤時間帯のほとんどを酪酎状態と同じ作業効率でもって仕事をこなしていることになるわけだ。だからといって、実際の看護師が夜勤中に千鳥足だったり、手元がおぼつかなかったりすることはない。

佐々木さんが補足する。

「多くの看護師が夜勤中になぜ、事故を起こさず、普通に働いているか。それは、彼らが極めて高い緊張感の下、業務に当たっているからです。こうした緊張感が続くことによるストレスもまた相当の負担になっています。」

別の海外の調査では、看護師が12時間連続で勤務した場合、8時間勤務の時に比べて勤務時間帯の最後の2時間で針刺しや、自らの傷口や粘膜に患者の血液などを接触させてしまう事故に遭う割合が高くなるとの報告もあるという。

多くの看護師は夜勤明けが近くなる午前5~7時ごろが最も眠くてつらい時間帯

「採血のために患者の腕を取りながら、うつらうつらしてしまったことがある」「アンプル(薬液などが入った小さなガラス製容器)を持つ手に力が入らず、落として割ってしまうことがたびたびある」

「患者と話した内容を覚えていない」「処方薬の仕分けを間違えるのは、決まって明け方」「内線電話をかけてコールしている間に、何の目的で、誰にかけたかを一瞬忘れてしまう」など、いずれも夜勤が明ける直前の出来事だという。

確かに、ある看護師はそのときの状況を「まるで、お酒に酔ったようにもうろうとしている」と表現していた。

オーストラリアでの実験の結果を見ると、これはあながち的外れな感想ではなかったということになる。さらに、別の調査では、夜勤明けの労働者は自動車事故や居眠り運転をしてしまう確率が高いとの報告もあります。

夜動による集中力の低下は医療ミスのリスクを高めるだけでなく、看護師の労災をも引き起こす危険をはらんでいる。

4,夜勤の看護師の弊害~「爆睡」は生命の危険も

佐々木さんは「爆睡」についても警鐘を鳴らす。

夜勤、交代勤務に従事していれば、つい「寝だめ」することで睡眠不足を取り戻そうとしがちだが、「場合によっては突然死につながる危険をはらんでいる」というのだ。

佐々木さんらが行なった研究のなかで、普段は八時間眠っている大学生を対象に12日間連続で1日5時間しか睡眠を取らせず、その間、睡眠時の徐波睡眠の出現率やレム睡眠中の心拍数などを調べた実験がある。

徐波睡眠とは、睡眠の前半に集中して表れる、いわゆる深い眠りのこと。

脳の機能を休ませるため、疲労回復に必要な重要な睡眠とされてきた。一方、レム睡眠とは、比較的浅い睡眠で、身体は眠っているが脳は活動している状態にある。

夢はこのレム睡眠中に見ることが多いといわれる。睡眠は通常、まず徐波睡眠が現れ、1~2時間後にレム睡眠に移り、以後、徐波とレムが交互に現れることがわかっている。

大学生への実験では、実験開始から2日目までは徐波睡眠の出現率は全体の20%、レム睡眠時の心拍数は毎分60拍前後と、正常な数値を示していた。

ところが、3日日以降、徐波睡眠の出現率が40,50%に増えると同時に、レム睡眠中の心拍数は毎分70拍近くまで跳ね上がったのだ。

「五時間睡眠が続いて疲れてきた3日日以降は、徐波睡眠が増えて眠りが深くなったわけです。時間は短いですが、いわゆる『爆睡』です。徐波睡眠で脳を体ませているからいいじゃないかと思われるかもしれませんが、同時に、この睡眠中、心拍数は急上昇して心臓はバクバク状態にあったわけで、身体への負担は増していたということです。実験からは、人間が一度に深い睡眠を取ろうとすると、心臓や血圧など循環器系の機能に深刻な負担をかけるということがわかりました」(佐々木さん)

徐波睡眠を十分に確保できれば、疲労は回復すると考えられてきた

もちろん、このことは間違いではない。一方で、佐々木さんの実験では、徐波睡眠が多く出現して深く眠っていても、同時にレム睡眠中の心拍数が通常に比べて毎分10拍近く上がってしまうことが明らかになった。

この実験からうかがえるのは、看護師の夜動のなかでも長時間勤務となる二交代の16時間夜勤を終えた後の睡眠の危険性だ。16時間連続夜勤の後は疲労困燎し、その後の睡眠は三交代の時以上に深い眠りにならざるを得ない。

その睡眠は、ともすれば身体に深刻な負担をかけかねないことがわかった

佐々木さんが、深い眠りが命取りになった可能性があると指摘するのが、東京都済生会中央病院で過労死した看護師、高橋愛依さんのケースだ。

高橋さんの病院には24時間拘束の当直があり、彼女は当直明けの朝、仮眠していたストレッチャーの上で意識不明になっているところを発見された。

死因は致死性不整脈だった。

「まさに爆睡中だった可能性があります。睡眠は本来、疲労を回復する機会です。それなのに、高橋さんはその睡眠中に亡くなってしまったのです」

佐々木さんは、16時間夜勤を伴う二交代を経費削減のために導入する病院が増えている実態についてこう警鐘を鳴らす。

「そもそも16時間夜勤は世界でも例がない、異常な長時間勤務です。諸外国では長時間夜勤といえば12時間夜勤のことを指します。人員不足や突然の同僚の欠勤などで例外的に16時間夜勤に就くことはありますが、その時に使われる言葉は、ダブル・8アワー・シフト。あくまでも労働は1日八時間、16時間は2日分の業務に当たるという考え方です。16時間夜勤などという働き方があるのは日本だけなんです。二交代勤務のように、『まとめて働いて、まとめて眠る』という生活スタイルが常態化すると、疲れきって深い眠りについている間に死に至りかねない危険があることが、実験結果からもわかりました。現在の三交代がうまくいかないからといって、安易に二交代を導入することは健康リスクの観点からも問題が大きいといわざるを得ません」

よりましな看護師の夜勤を模索する

とはいえ、これだけ経済がグローバル化し、あらゆる技術が進歩した社会では、企業や組織は24時間体制で活動せざるを得ない。そうでなくとも、患者を相手にする看護師の仕事から夜勤をなくすことは不可能だ。

では、健康や業務の安全性を損なわない「身体によい夜勤」はあるのだろうか。

佐々木さんは「看護師についていえば、まずは、現在の『逆循環』の三交代勤務を『正循環』へと見直すことが必要です」と指摘する。

逆循環、正循環とは何か?

さまざまな研究の結果、人間の生体リズムは24時間周期ではなく、25時間周期であることが明らかになっている。

欧米などで、人間を太陽光を遮断した暗闇で長期間にわたって生活させる実験を行なったところ、睡眠開始時刻が1時間ずつ後ろにずれていくことがわかった。

人間は本来の生体リズムである25時間周期を、太陽光によって24時間周期に調整していることが明らかになったのだ。このため、人間の身体にとっては、普段の就寝時刻を反時計回りに早めるよりも、時計回りに遅らせるほうが比較的負担が軽い。

就寝時刻を早めることは25時間周期の人間の生体

リズムこの流れに逆行する逆循環であるのに対し、遅らせることはリズムに沿った正循環になるからだ。

佐々木さんは海外旅行に行ったときの時差ぼけを考えればわかりやすいという。

「例えば、日本からパリに行ったときのほうが、ニューヨークヘ行ったときよりも、時差ぼけを解消しやすいはずです。パリの場合は時刻が後ろにずれる正循環ですが、ニューヨークの場合は前にずれる逆循環だからです」

逆循環が正循環に比べて、動物にとって有害であることも明らかになりつつあるという。

ある実験で、死期が近い老齢のラットを8週間にわたり、活動時間を6時間前にずらすグループ(逆循環)と、ずらさないグループ、6時間後ろにずらすグループ(正循環)に分けて生活させ、その生存率を比較した。

その結果、ずらさないグループの生存率は83%だったのに対し、正循環の場合は68%、逆循環の場合は47%となった。つまり、生体リズムは規則正しいことに越したことはないが、やむを得ず乱す場合は、正循環のほうが身体への負担が少ないことがわかったのだ。

まとめ

これらの仕組みを、看護師の勤務形態に当てはめて考えてみる。

多くの看護師の勤務サイクルは「日勤1深夜勤1準夜勤」。

この場合、勤務開始時刻は反時計回りに前にずれている。つまり逆循環だ。佐々木さんは、これを「日勤1準夜勤1深夜勤」の正循環にしたほうが「身体にやさしく、生体リズムを調整しやすい」と指摘する。

そのうえで、質のよい睡眠を取りづらい「圧縮勤務」も可能な限り、見直すべきだという。もちろん、そのためには、相応の人員の手当てが必要となってくる。

ただし、佐々木さんは「『身体によい夜勤』などというものはありません」と釘を刺す。

「そもそも夜勤は身体に有害なんです。しかし、二四時間社会の現代、夜間に働かないという選択は不可能です。夜勤に従事せざるを得ない現代だからこそ、『よりましな夜勤』を模索していく必要があるのです」

最後に

今、東京都立病院の一部職場で、こんなユニークな取り組みが進んでいる。二交代職場で働く看護師自らが「実験台」となって、16時間連続夜勤の弊害害を科学的、客観的に立証しようとの試みだ。

都立病院では、東京都による経営改革の一環として、独立行政法人化やPFI手法の導入などの民営化が進んでおり、それに伴い、すでに一部病棟では二交代16時間夜勤が導入されている。

病院側は、看護師の二交代勤務のメリットとして「夜勤回数が減る」「深夜の出勤や帰宅がなくなる」「準夜勤から深夜勤への申し送りの時間が節約できる」などとアピール。

このため、看護師の中にも二交代を歓迎する声が少なくない。

これに対して、病院職員らでつくる東京都庁職員労働組合(都庁職)病院支部は二交代には反対の立場。長時間夜勤の弊害を客観的、科学的に裏付けるため、都庁職が中心となり、二交代職場で働いている看護師の協力の下、彼らの身体データを集める試みを始めたのだ。

2010年8月、調査開始に先駆けて都庁職各支部の関係者らが集まった会合では、都庁職病院支部副支部長で看護師の渡辺暢子さんが「(二交代職場の看護師から)『朝がつらい』『疲れが取れない』などの声を聞いても、科学的なデータがないために、東京都との話し合いでうまく反論できないことがありました。

二交代がいかに問題のある看護勤務かを科学的に証明したい」と調査の狙いについて説明した。

調査には、佐々木さんが所属する労働科学研究所が協力。調査期間中は二四時間にわたって腕時計状の測定機器を身につけてもらい、さまざまな身体データを収集するほか、16時間勤務が終わった後、高頻度で点滅する光を利用して覚醒度や疲労度を計る「フリッカー値」や、血圧などを測定する。

また、勤務中の看護師の仮眠を取った後の尿に含まれる「尿中メラトニン」の量などもチェック。さまざまな指標から、長時間夜勤が身体にどのような影響を与えているかを調べる。

海外のある報道では、元客室乗務員が自らの乳がんと夜勤の因果関係について知らされたとき、「夜勤ががんの原因になるとわかつていたら、あれほど長い間、キャビンアテンダントの仕事は続けなかった」と話したと伝えられている。

現代社会において、例え身体に有害でも、すべての看護師夜勤を禁止することは難しい。

しかし、夜間に看護師働くことの弊害が科学的に立証され、そのことを労働者が正しく理解したうえで夜勤に就くか、それともまったくの無知かでは、雲泥の差がある。

根拠と知識さえあれば、看護労働時間の短縮を訴えることもできるし、エクストラ。ペイ(特別支給)を求めることもできるし、場合によっては早期退職の道を選ぶこともできる。

看護師の夜勤回数を減らすために人手を増やしてほしいとの訴えにも、説得力が出てくる。

「日本では、二交代の影響についての本格的な科学調査は初めて」(都庁職)。海外では同様の調査が行なわれたことはあるが、その場合は長くても12時間夜動が対象だった。世界でも例がない長時間の16時間夜勤を通して収集されたデータはきわめて〃貴重″ということになる。

ユニークな「フィールドワーク」に、関係者の関心が高まっている。

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