看護師ライン外スタッフの効果的な日常業務のための対策

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看護師ライン外スタッフの日常業務

メンタルヘルス対策が重要ではあるものの、そのために一般の病院で産業保健スタッフを専従者として配置することは難しいのが現状といえます。

しかし、少し視点を変えてみれば、メンタルヘルス専任ではなくとも、看護師ライン外のスタッフとラインがうまく連携することにより、効果的なメンタルヘルス対策が期待できます。

ラインを戻して効果的な人材を活用を

多くの病院では、医療安全管理者、教育担当者、感染対策担当者、特定領域で活躍する認定看護師や専門看護師等は増えつつあり、 日々ラインを超えて、時には職種や職位も超えて活動しています。

看護職員就業者数の推移出典:日本看護協会

そうした看護師は、経験豊かで人格的にも素晴らしい方が多く、幅広いスタッフと接する機会に恵まれているため、 日常業務でのちょっとした関わりをきっかけに悩みやストレスの相談を受けやすい環境にあります。

しかし、そうした人材を活用していくためには、相談された情報を個人のプライバシーを守りながらうまくラインに戻していくために、いくつか注意すべき点があるようです。

ライン外スタッフの期待をアセスメントする

まずは相談者が、 看護師ライン外スタッフに何を期待して相談しているのかをアセスメントすることが大切です。多くの場合、ライン外スタッフという利害関係のない誰かに聴いてもらえるだけで楽になるということも多いようです。

同僚や上司、部下等に対して相談者が抱いている陰性感情や日常業務の愚痴、そんなちよっとしたことでも、 ラインにおいて(所属部署内での)役割を担う立場の人にはなかなか言えないものです。

そんなとき、当該部署の事情もある程度理解してくれて、話を聴いてくれる立場のライン外スタッフはとてもいい相談相手なのでしよう。

実際の相談場面を考えてみましょう。

相談者自身が事実関係や気持ちの整理もつけないまま、「ここだけの話なんですけど……」という表現で始める相談には注意が必要です。

多くの場合、このような表現で始まる相談には、とても“ここだけの話”では済まされない内容も多く、相談された側にとっても自分では抱えきれない問題になってしまうことさえあります。

そんな時あなたならどうしますか? 相談者の上司に報告しますか。それとも、自分自身の上司に相談する方法をとるのでしょうか。

いずれの方法をとるにしろ、相談者のプライバシーを守るための方法は、相談者の氏名を伏せて話すことでしょう。しかし、限られた人間関係の下での情報の場合、いくらあなたが個人名を伏せたとしても自然とわかってしまうことはないでしょうか。

プライバシー保護というと、 とかく個人を特定しないことばかりが重視されていますが、重要なのは「情報の自己決定権」です。上司に報告するよう進言するか、あなたが代弁するかを相談者自身に意思決定してもらう必要があります。

具体的には、「いくら“ここだけの話”とはいっても、こうした話を聴いた以上は私も上司に報告しないわけにはいかない。あなたから聴いたというつもりはないけれど、この事実関係からわかってしまう可能性もあると思う。

それなら自分で言ったほうが賢明ではないですか。どうしても言いにくいのならば、私から報告してもかまいませんが」と相談者へきちんと話すことが大切です。

それをつい怠ってしまうと、相談者となる新人看護師や看護師の相談役の上司、専門看護師など、あなたやあなたの上司といったあちこちの人間関係がギクシャクしてして看護師のコミュニケーションの能力が向上できかねません。

ごく当たり前のようでいて、意外と忘れがちなことともいえます。

早急な介入が必要となる事例での注意点

次に緊急時の事例を検証してみましょう。前述のようにプライバシーに配慮する時間さえない事例、すなわち早急な介入が必要と判断される危機的な状況の場合には例外になります。

強い抑うつ状態や自殺企図・他者からの暴力行為等、緊急の対応が求められる事例がこれに該当します。昨今の病院では、残念ながらこうした危機的状況に遭遇することも少なくありません。

適切な対応が遅れる可能性のための準備

相談内容によっては、専門医や相談者の家族とも緊急に連絡をとりながら、危機介入が必要な場合もあるでしょう。しかし、危機的状況に遭遇した時には、さらに情報が錯綜し、適切な対応が遅れる可能性があります。

病院というところは、専門家看護師などがあちこちにいるため、その環境が災いすることさえあるのです。そんな危機的状況を想定して、報告経路を明確化し、緊急時の相談窓口を一本化しておくことも重要でしょう。

ここで注意しなくてはならないのが、相談者や、相談者を困らせている対象者に対して、「どうもあの人はおかしい、うつではないだろうか」と憶測で診断することやラベリングしてしまうことです。

医療従事者同士の場合、こうした行為をつい無意識にしてしまう傾向があるようですが、できるだけ避けるよう配慮しましょう。たとえその診断があっていたとしても、対象者の適切な受診行動につながるとは思えません。

当該職場の人たちが求めていることは、病人を出すことではないはずです。周囲の人たちが、その人の言動のどんなところに困っているのか、対処しにくいと感じるのはどのような場面なのかといった視点で整理することが大切です。

プライバシーの尊重と安全配慮義務

こうして働く人の健康問題を考える際にいつも問題になるのが、一人ひとりの「プライバシーの尊重」と事業者(管理監督者)に求められる「安全配慮義務」のバランスです。

メンタルヘルスの問題の場合には、デリケートな情報も多いため慎重な対応が求められます。看護職という職業の労働形態を考えると、家族の理解と協力は不可欠です。

24時間体制で働く陰には、一人ひとりの家庭環境の問題やライフサイクル上の悩みもあるでしょう。独身だから、子育て期だからとひとくくりにするのではなく、一人ひとりの働くことの意味づけを大切にし、働き方への自律性を尊重しながらも組織としての公平性を維持していくことが求められているのです。

ライン外のスタッフにぽろりともらすスタッフー人ひとりの本音を拾い上げながらも、組織内の一定の統制は確保していくバランスが重要となります。それはプライバシーの尊重と安全配慮義務のバランス、 ラインとライン外スタッフの連携を意味あるものにするためのバランスともいえるでしょう。

こころの健康相談体制の一例

新人看護師が心を開く場所

長期の実習を経験している新人看護師

上記では、 看護師ライン外スタッフとラインが連携して効果的にケアするための注意点を整理しました。

ここでは、具体的な事例をもとにして、個人のプライバシーに配慮しながらラインも本人も傷つくことなく情報共有していくことの難しさを考えていきたいと思います。

また、新人看護師は、長期の実習を経験しているとはいえ、自分が目指していた看護や職場はここではない、と思いがちになり離職の引き金となっていると考えられます。新入社員の就労意識について、ぜひチェックしてみてください。

新人看護師の誰にも言えない不安

A看護師は、今春看護学校を卒業したばかりの新人看護師です。ある急性期病院の忙しい循環器病棟の配属になりました。その病棟のB師長もスタッフもみな優しくて、「わからないことは何でも間いて」と言ってくれます。

しかしいつも忙しそうで、 なかなか声をかけづらい雰囲気です。プリセプターのC先輩も、“ 正直自分のことで精一杯”といった感じです。A看護師にとって入職前の実習だけでは、点滴はおろか、採血さえもできそうもありません。

病棟のみんなが「大丈夫?」とか「わからないことない?」としきりに声はかけてくれるのですが、「大文夫じゃない」なんて、日が裂けても言えません。

そんなこと言ったら、「まったくA看護師は……」とどこかで陰口でも言われるのではないかと、そんなことばかり気になります。

何回説明を聞いても頭の中は真っ白なのに、 自分の日からは「大丈夫です1」と強がりの言葉しか出てきません。

そんな折、看護学生時代に実習で教わったD師長と、病院の売店で偶然出合いました。今はこの病院に転職し、外科病棟の師長になっているとのことです。

「よかった! 何かあったらD師長に相談すればいい」。

A看護師は、そのとき正直ほっとしたのを覚えています。

駆け込み寺はライン外スタッフ

A看護師がプリセプターのC看護師と一緒に患者の受け持ちを始めてから1週間も経たないある日のことです。「じゃあ、 この点滴してきて」と、いとも簡単なことのようにC看護師は点滴をセットした注射トレイをA看護師に渡しました。

注射の実施確認方法や一連の手順を熱心に説明してくれますが、A看護師の頭の中は真っ自で、“ どうしよう”という不安ばかりが募ります。

「じゃあ、できるわね」と言われた瞬間、不安が頂点に達し、あふれる涙をこらえて、そのままD師長のもとへ逃げ込んでいきました。

D師長は「みんながその不安を乗り越えて一人前の看護師になっていくのよ」と、A看護師が学生の頃のようにやさしく受け止めてくれました。自分の思いを話すことができたA看護師は少しずつ冷静になりました。

業務に戻らないといけないと気づき、D師長と一緒に病棟に戻り、D師長はB師長やC看護師にも説明してくれました。

そして、その日から不安なことが起こるたびにD師長のもとに走っては、話を聞いてもらって落ち着き、また病棟に戻るという日が続いたのです。

ラインとライン外との狭間

数日後、A看護師のラインマネジャーであるB師長は病棟をラウンドしてきたE教育担当看護師に相談しました。「A看護師の不安な気持ちを受け止めてくれるD師長には本当に感謝しているけれど、“何かあるたびにD師長”というのでは、こちらも少し困っている」という内容でした。

そこでさらに困ったのがE看護師です。教育担当としてA看護師とも関わり、彼女の不安は痛いほどわかるけれど、病棟側の言い分もよくわかる。またD師長も困っているのではないか。E看護師は、自分が得た情報をどのように整理して、 どこへ返していけばよいのだろうかと悩みました。

いくらA看護師が新入とはいっても、業務のことは当該部署の上司であるB師長にきちんと相談できないのでは困る。B師長もB師長で、頑張って新人を支援してくれているのはわかるけれど、「なぜA看護師がD師長に駆け込んでしまうのか」に目を向けてほしい。

D師長も、いくら昔の教え子とはいえ今は当院の師長なのだから、きちんとB師長に戻すような配慮がほしい。しかし、関係者の誰もがA看護師のためを思って行動しているだけに、E看護師は困り呆ててしまいました。

「心を開く場」をつくるための情報共有

今回の事例で何が問題なのでしようか? 現場では、 このようにいろいろな情報が錯綜する中で、新人看護師ヘのケアと業務を教えるラインにおける機能が混乱しているようです。

ラインの上司だからこそ言えること、言えないことがある一方で、看護師ライン外スタッフだからこそ言えること、言えないことがあります。この点を整理する必要があるようです。

まずは「A看護師ヘのケア」という視点からすると、D師長は大切な存在ですすし、両者さえ差し支えなければ、その関係を継続することには何の問題もないと思われます。しかし、業務を中断する行動が続く場合にはA看護師に注意喚起しなければなりません。

また、A看護師から相談された内容をラインにあるB師長や病棟スタッフ、教育担当のE看護師が知るべきだと判断されれば、A看護師の了承を得た上での情報提示も必要でしよう。

では、その情報を整理する役割は誰が担うべきなのでしょうか? 組織のラインの特徴や看護師ライン外スタッフの役割・個性によって、誰がベストなのかは議論があるところでしよう。

  1. この事例の場合には、
  2. D師長自身が気づいて調整する
  3. 教育担当E看護師が調整する
  4. 関係者が集まり調整する
  5. トップが全体をみて判断調整する

等の方法が考えられます。ただし、いずれの方法をとる場合にも、お互いの立場を尊重しながら「A看護師を大切に育てよう」という思いを第一に考えることが重要です。

組織人としての行動規範を重視するあまり、真面目すぎる看護師ほど頑なな言動をとりがちですが、それは一歩間違うとお互いの立場を脅かす結果にさえなってしまいます。

ここでいちばん大切なのは、A看護師が唯一心を開くことができるD師長の存在を大事にしつつ、関係者が継続的に情報共有することです。

そして、最終的にはA看護師自身が自分の思いをD師長以外にも正直に表出できる環境が病棟にできれば理想的でしょう。

しかし、 この事例のD師長のような存在がいる場合はむしろまれです。

まとめ

ほとんどの新人看護師は、毎日の業務のちょっとしたことにも押しつぶされそうな不安を抱えながら、誰にも相談できずに耐えているのです。あなたの周りにもきっといるだろうA看護師のような新人看護師の心を開く場をいかに創っていくのか。

それが今の看護管理の現場で見失いがちな問題ではないでしょうか。

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