自治体病院が地方独立行政法人化の裏側は地方公営企業法の全部適用

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診断医師DRハウス

医療現場の労働環境が急激に荒廃している。そして、それは都道府県や市町村が運営する自治体病院や、独立行政法人。

国立病院機構、赤十字病院などの公的病院において、より自治体病院は、深刻な様相を呈しているようなのだ。

なかでも、地域医療を支える自治体病院での医師や看護師の疲弊は、そのまま地域住民への医療サービスの質を脅かすことにもなりかねない。今、自治体病院で何が起きているのか。

大阪府立病院

地方独立行政法人化大阪府立病院

定義・目的 住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地からその地域において確実に実施される必要のある事務・事業のうち、地方公共団体自身が直接実施する必要はないものの、民間の主体に委ねては確実な実施が確保できないおそれがあるものを効率的・効果的に行わせるため、地方公共団体が設立する法人。 地方独立行政法人法の概要:文部科学省文部科学省

比較的、古い低層の住宅街の中にあって、ライトグレーのあかぬけた造りの大阪府立急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)はひときわ目を引く建物だ。

28診療科と約770床を有し、地域の高度医療を牽引する府内有数の基幹総合病院だ。

この病院にほど近い住宅街の一角に暮らす女性(71歳)が夫を亡くしたのは200年。咽頭がんを患い、同病院で息を引き取った。女性は夫の最後を思い出すたび、「もっと穏やかな環境で看取らてあげたかった」と後悔の思いがこみ上げるという。

「手術した後、息も絶え絶えの状態だったのに、退院してほしいと言われたんです。看護師さんに相談しようと思っても、『退院予定日は○日ですから』の一点張りで……」

転院先として紹介された病院はクリニックに近い小規模な施設で、女性には設備の面で劣って見えた。相談しようにも、すでに夫は声を発することができず、筆談のためにペンを握る力も失っていた。

夫の死は覚悟していた。ただ、こんな状態で身体を動かして、最期に苦しい思いをさせることになりはしないか。そのことだけが心配だった。

退院日が近づき、不安を募らせる女性に対し、それでも、看護師は「予定通りですから、大丈夫ですから」と繰り返したという。結局、男性は退院予定日の数日前に同病院で亡くなった。

65歳いじょうの追う礼者の主な志望率の推移

参考:医師派遣について

女性はこう自分に言い聞かせているという。

「早く死んでくれてよかった。転院前に死なせてあげることができてよかった。それがせめてもの救いでした」

男性のかかりつけ医で、同病院の近くで開業するクリニックの院長が憤る。

「なるべく早く退院させてベッドを回転させたいんでしょうが、かわいそうに、(男性の)奥さんは泣いてウチに訴えてきましたよ。府立病院とは古くから患者を紹介しあう関係でしたが、以前は、亡くなる寸前の患者を家族の意思に反して放り出すようなことは決してなかったのに……。『独法化』以来、府立病院の経営効率を優先する姿勢には目に余るものがある」

地方独立行政法人の「独法化」

大阪府が、赤字続きだった府立五病院(急性期・総合医療センター、呼吸器。アレルギー医療センター、精神医療センター、成人病センター、母子保健総合医療センター)の経営を地方独立行政法人。

地方独立行政法人(ちほうどくりつぎょうせいほうじん)とは、日本における法人のうち、地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)に規定される「住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地からその地域において確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものと地方公共団体が認めるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律の定めるところにより地方公共団体が設立する法人」をいう。WikipediaWikipedia

大阪府立病院機構へと移行させたのは、2006年4月。太田房江前知事時代のことだ。都道府県立の病院の地方独立行政法人化は全国でも初めて。病院事業の赤字に苦しむ多くの自治体関係者が注目するなかでの試みだった。

地方独立行政法人化されると、従来のような府の一般会計からの繰り入れは見込めなくなり、原則、法人による独立採算が求められる。加えて、同機構の設立は、地方独立行政法人前の″借金〃である莫大な不良債務約65億7000万円を引き継ぐ形の、いわばマイナスからの船出だった。

誰もが苦戦を予想したが、同機構は業務の効率化や診療報酬加算の取得、人件費の削減などの対策を矢継ぎ早に打ち出すと、単年度決算を早々に黒字化。

毎年、借金を返し続け、2009年度の収支決算では、過去最高の約28億5000万円の黒字を計上すると同時に、不良債務額を約2億5000万円にまで減らすことに成功した。地方独立行政法人からわずか4年で、借金をほぼ返し終える「快挙」を成し遂げたのだ。

同機構の決算をみると、医療本体の収入に当たる「医業収益」の伸びが経営改善に貢献していることがわかる。診療報酬が下がり続けるなか、人員や診療体制を整えて診療報酬加算を取りにいく積極経営が奏功した。

「公の無駄」には厳しい発言で知られた橋下徹知事が、府立病院を視察した際には、

「すばらしい。知事就任以来、初めて前向きな将来展望を感じさせてくれた施設」

と絶賛したといわれる。

一方、患者の立場からはいいことばかりとは言えない面もある。

例えば、先述した女性の夫が入院していた急性期。総合医療センターをみると、入院患者の平均在院日数が独立行政法人前の2005年度の12月7日から、2007年度には11月9日に短縮された。

入院計画表に当たる「クリティカルパス」の適用率は2005年度の65,8%から2007年度の77,0% へと伸びた。

クリティカルパス 「重大な経路」の意味。 システム構築などのプロジェクトを進めるうえで、ネックとなる部分を指し、事実上プロジェクト全体のスケジュールを左右する作業の連なりを指す。 クリティカルパスの作業が遅れると、プロジェクト全体のスケジュールが遅れることになる。クリティカルパス(くりてぃかるぱす)とは – コトバンククリティカルパス(くりてぃかるぱす)とは – コトバンク

平均在院日数は診療報酬上、短いほど病院経営には有利とされる。クリティカルパスとは、疾患ごとにあらかじめ手術やリハビリ、退院日などの日程などを決める入院計画表。

これらのデータの変化は何を意味するのか。自治体病院に検査技師として勤務した経験があり、病院財務に詳しい金川佳弘さんはこう解説する。

「平均在院日数の短縮化は病院経営に有利な一方で、退院を急かされたり、強いられたりする患者が出てくる恐れがあります。クリティカルパスは経営上、最も効率的な治療方針を立てられるうえ、患者もパスに沿った均質な治療を受けられるメリットがある一方で、計画にこだわりすぎて患者の状態や要望に臨機応変に対応できないという可能性もあります。平均在院日数の短縮も、クリティカルパスの適用も諸刃の刃。一般論ではありますが、これらの数値が急激に『改善』したり、ノルマのように目標数値を掲げたりしているような病院では、患者サービスに影響が出かねない無理な効率化が進められている恐れがあります」

大阪府立病院機構の黒字化のもう一つの鍵は、支出の抑制だ。

医師や看護師といった医療行為に直接かかわる業務以外の仕事を外部委託することで、人件費の削減に成功した。

医師や看護師の仕事が「コア業務」といわれるのに対し、こうした業務は「ノンコア業務」「周辺労働」などと言われる。周辺業務の外部委託は、赤字に苦しむ病院が真っ先に手を付ける「改革」だ。

大阪府立病院でも、医療事務や施設管理業務、給食業務などが外部委託されている。

独立行政法人化の迫られる財政健全化とガイドライン策定

自治体病院を取り巻く環境はどう変化しているのか?

日本医師会がまとめた「新医師臨床研修制度と医師偏在。医師不足に関する緊急アンケート調査」によると、2004年度に研修医が自由に研修先病院を選べるようになった同制度がスタートして以後、77%の大学医局が医師派遣を中止・休止したことが明らかになった。

休上の理由としては、大半の医局が新制度の影響で研修医が減って人材不足に陥ったことを挙げた。

地方独立行政法人の医師派遣数が著しく減った

病院種別ごとの派遣休止の影響をみると、派遣医師数が減った割合が最も高かったのは「地方独立行政法人、国立病院機構の国立病院」、ついで自体病院などの「公的病院」だった。

医師派遣状況

参考:医師派遣について医師派遣について

また、北海道や東北といった過疎地域で派遣医減少の影響が大きかったほか、医師派遣を中止された医療機関3003施設のうち、44,6%が「診療制限などが起きた」、16,5%が「診療科を開鎖した」と回答した。

調査は全国の1821医局を対象に実施、うち1024医局から回答を得た。

また、以前の記事でも触れたとおり、2006年度の診療報酬改定では、入院患者7人に対して看護師1人を配置する「7対1」配置基準が新設された。新設の基準を満たした病院に、最も多くの入院基本料が支払われる仕組みで、これにより、全国各地の病院で激しい看護師争奪戦が過熱化した。

看護師の勤務形態は、二交代か、三交代か、割れる賛否については、看護師の夜勤勤務時間が16時間という長時間、連続して働くようなシフトは世界的にも例がない。

看護師の夜勤の過酷さは健康だけではなく家族との絆をも破壊する

都市部にある大規模病院が好条件を提示して看護師確保に成功したのに対し、地域の小規模病院や赤字経営に苦しむ公的病院などでは、深刻な看護師不足に陥った。

一方で、厚生労働省の統計では、2008年から2009年にかけて全国の病院のベッド数はトータルで7527床減った。

開設者別の内訳では、民間の「医療法人」などは増床している一方で、国立病院機構などの「国」は726床、地方独立行政法人や自治体病院などの一公的医療機関」は5524床、それぞれ減っており、削減実数の七割以上を国や自治体が開設する施設のベッドが占めることがわかった。

新臨床研修制度に、「7対1」看護師配置基準に、自治体病院のベッド数削減。一連の制度変更やデータからは、新臨床研修制度や新たな看護師配置基準が主に自治体病院の医療現場の人手不足に拍車をかけ、この結果、ベッド数削減や診療科閉鎖を誘発した流れが見て取れる。

ベッド数や診療科が減った病院の収益は悪化、ジリ貧になったドロ舟からはさらに医師や看護師がいなくなる、といった悪循環に直面。そして、こうした逆境による痛手は、自治体病院のなかでも主に研修医や看護師が選びたがらない地方の病院においてより大きいことが予想される。

もともと、小児医療や救命救急、過疎地医療などの不採算部門を担ってきた全国の自治体病院は、おおむね3分の2が赤字だといわれてきた。総務省のまとめでは、2008年度、全国の公立病院九二六施設のうち、70,9%が赤字決算だった。

赤字は自治体本体からの繰り入れで穴埋めされてきた

しかし、2000年以降は、自治体の財政難や小泉政権による3位1体改革の影響などにより、病院事業への繰入金総額は減少、不良債務は増大する傾向にあった。

そこへ、新臨床研修制度や7対1看護師配置基準が招いた人手不足が経営難に拍車をかけた。

しかし、問題は医師や看護師の不足だけではなかった。2002年度以降に連続して診療報酬本体がマイナス改定されたことも痛手となったし、2007年度に成立した「自治体財政健全化法」と、同年に総務省が通知した「公立病院改革ガイドライン」は、一部の自治体病院に致命的な打撃を与えることになった。

自治体財政健全化法とは自治体の財政を立て直すことが目的である

司法では、自治体病院の不良債務を自治体本体の会計と連結評価することなどを義務付けたうえ、赤字比率が一定基準を超えた自治体は「財政健全化団体」「財政再生団体」に指定することとした。

この結果、病院の赤字問題がにわかに注目を集め、赤字病院を抱える自治体のプレッシャーが一気に高まった。

一方、公立病院改革ガイドラインは公立病院の経営改革が狙いだ。各自治体に対し「経営の効率化」「再編。ネットヮーク化」「経営形態の見直し」の3つの観点から、公立病院改革プランを策定するよう求めており、プラン策定に当たっては、三年後をめどにした黒字化や、病床稼働率70%未満の病院は病床数を削減するよう促すなど、経営のあり方から目標数値まで細かな注文をつけた。

「財政再建」「経営改革」といえば聞こえはよいが、要するに「自治体病院は単独で儲けを出せ」と迫っているわけだ。

医療費削減政策に基づく、診療報酬のマイナス改定などにより、病院を取り巻く環境は官民ともに厳しい。

自治体病院経営難から指定管理者制度へ

千葉県上房総半島に位置する鋸南町。高齢化が進む、人口約9000人の小さな町は2008年四月、開設からおよそ60年間にわたり地域医療を支えてきた鋸南町国民健康保険鋸南病院の直営から手を引いた。

全国の自治体病院のなかでは珍しく極めて健全な経営を続けてきた

経常費用に対する町からの繰り入れなどを除いた実質収益の割合(実質収益対経常費用比率)は1999~2005年度、88,5%~99,7%を推移。これは、全国の同規模病院の水準を10ポイント程度上回っており、同病院は町財政に負担をかけることなく、病院単独でほぼ採算を取っていた。

この優良病院が2006年度、突如、経営の危機に直面することになる。看護師32人のうち、12人がいっぺんに退職してしまったのだ。背景には2006年の診療報酬改定で「7対1」看護師配置基準が導入されたことがある。

ただでさえ、看護師が足りないなか、全国の病院が看護師確保に奔走。典型的な地方の小規模病院だった鋸南病院はそのしわ寄せを受けた。また、鋸南町役場が2007年1月、財政難から町職員の給与を一律3%削減したことも離職に拍車をかけた。

町役場担当者は「給与カットや七対一基準は直接の原因ではない。職場の人間関係に問題があった」と、いっせい退職の原因は属人的なものとした。

確かに、小さな職場のなかで、一部の看護師同士の関係がうまくいっていなかったのは事実のようだったが、いさかいはその年に始まったわけではなかった。

7対1基準が看護師の離職の引き金となった

このことは否めず、実際、その後、町が町内外にいくら募集をかけても、人員がかつての水準に戻ることはなかった。

この結果、同病院は71床あったベッドのうち、半分近い38床しか稼動させることができなくなった。これにより、2007年度の実質収益対経常費用比率は70,9%と、前年度までの水準と比べると20ポイント近く急落した。

さらに、追い討ちをかけたのは、「自治体財政健全化法」と「公立病院改革ガイドライン」だ。八方ふさがりのなか、同町は閉鎖だけは避けるため、千葉県庁や経営譲渡できそうな民間病院などに相談を持ちかけた。

しかし、県の担当者は「(財政破綻した)夕張の二の舞は困る」と言うばかり。期待をしていた民間病院からは「400床以上ないと採算が取れない」と断られ、医療コンサルタントからは「あなたたちの病院にはビジョンがない」と切り捨てられたという。

財政健全化団体に転落してしまう

追い詰められた同町に手を差し伸べたのは、同病院で働く職員たちだった。彼らは金親正敏院長を理事長とした医療法人「鋸南きさらぎ会」を発足、この法人を指定管理者として病院の運営を委託するよう、町に提案したのだ。

これにより、同病院は2008年4月、設置は引き続き鋸南町が、運営は医療法人「鋸南きさらぎ会」がそれぞれ担う、「公設民営」の経営形態の下、かろうじて再スタートを切った。

一方で、これを境に、病院職員の待遇は激変した。まず、指定管理者制度の導入後は役場に戻ることができた一部の事務職員を除き、全員が「分限免職」となり、公務員の身分を失った。

給与は、金親院長が20%、他の職員は平均12%のカット。勤続年数などによっては100万円の年収ダウンになった職員もいた。

看護師や医師らの離職にも歯止めはかからず、正職員は1年で45人から32人に減少した。このため、外科医の金親院長が内科を担当したり、薬剤師が事務長を兼務したりすることでかろうじてやりくりした。

土、日曜の当直は非常勤医師に任せることにしたが、受け入れは比較的軽症な患者に限定せぎるを得なくなった。

収支は厳しく、高額医療機器などが故障しても買い換える余裕はなくなった

全国各地で、自治体病院の休止、廃院を表明する自治体が表れ始めたのは、ちょうどこのころ。

マスコミなどで「自治体病院の突然死」と言われた事態で、2007年3月には大阪府忠岡町の公立忠岡病院が廃院、翌2008年9月には千葉県銚子市の銚子市立総合病院が休止(2010年五月、指定管理者制度を導入して再開)、さらに2009年二月には大阪府松原市の市立松原病院が廃院となった。

背景には鋸南病院と同じ、「7対1」看護師配置基準や自治体財政健全化法、公立病院改革ガイドラインがあったほか、医師の新臨床研修制度や診療報酬のマイナス改定などの影響もあったとみられる。

確かに、鋸南病院はかろうじて「突然死」を免れた。しかし、採算が取れなくなった病院を前になす術がなかったのは、鋸南町もほかの自治体も変わりない。

同病院が存続できたのは、待遇の悪化をいとうことなく、「おらが町の病院」を守ろうとした病院職員らの善意による賜物だ。厚生労働省のまとめでは2008~2009年度にかけ、自治体病院を含む「公的医療機関」は24施設減った。

自治体病院が見捨てられていく。全国でこんな事態が相次いでいる。

自治体病院の経営形態見直し方法

公立病院改革ガイドラインが求める「経営の効率化」「再編。ネットワーク化」「経営形態の見直し」のうち、自治体病院の多くがまず、最初に取り組むのが「経営の効率化」だ。

在院日数の短縮化や7対1看護師配置基準の導入、診療報酬の各種加算の取得、周辺業務の外部委託化、光熱費や事務用品代の節約などで、収支の改善を図る。

そして、同時に、あるいは経営効率化だけでは黒字化は達成できないと判断した場合、「経営形態の見直し」へと一歩踏み出すことになる。

自治体病院経営形態の見直しは具体的にどんなパターンがあるのか

最も多くの自治体が選んだのは、地方公営企業法の「全部適用」だ。

自治体病院は通常、同法の「一部適用」にとどまり、運営にかかわる主な権限は自治体の首長が握っている。これを全部適用に切り替えると、院長などが専任の管理者となり、首長に代わって人事権や予算編成権を駆使できるようになり、現状に即応した機動的な経営が可能になるとされる。

また、2003年に制度化されて以後、取り組む自治体が増えたのが「指定管理者」制度の導入だ。設置主体は自治体のままで、運営を民間の医療法人に委ねる「公設民営」の形態で、前出の鋸南病院はこの手法を採った。

病院を法人運営とする地方独立行政法人化

自治体版「分社化リストラ」とも言われる手法で、前出の大阪府が府立病院の経営再建にあたり、この道を選んだ。

公共施設の建設や維持管理、運営を民間の資金やノゥハウを生かして行なう「PFI(Private Finance Initiative)方式」と呼ばれる方法もある。

ただ、この方式は高知市の高知医療センターが先行して採用、金融大手のオリックスを代表とする関連企業が参入したが、わずか5年で破綻に追い込まれるなど、失敗例が相次いだ。

医療界では早くも、病院経営にはPIFはなじまないとの指摘も出ている。

自治体が完全に病院経営から撤退するのが民間譲渡である

「官」がかかわる度合いが高い順番に「全部適用」「指定管理者制度」「地方独立行政法人化」「PIF」「民間譲渡」と考えてよい。

また、経営形態の見直しとは別に、総務省が公立病院改革ガイドラインで提示しているのが、主に二次医療圏を単位とした地域における医療機関などの「再編。ネットワーク化」だ。

圏内の自治体が連携し、医師やベッドを中核となる病院に集約する一方、そのほかの病院は規模縮小するなどして機能分担を図り、圏域全体で効率的な医療を提供していくことが狙いとされる。

総務省のまとめでは、2010年3月の時点で、「全部適用」は322病院、「指定管理者制度」は56病院、「地方独立行政法人化」は二21病院、「民間譲渡」は27病院、「再編、ネットワーク化」を含む「再編。統合」は五地域だった。

指定管理者制度は56病院のうち53病院が2006年度以降の導入。

地方独立行政法人化も前出の大阪府立病院の「成功例」を受け、ここ数年の間に移行した自治体がほとんどだ。

これまでと同じように「公設直営」のままで病院を維持することが難しくなるなか、都道府県や市町村による駆け込み的な経営形態の見直しが相次いでいる。

自治体が病院経営から少しずつ地方独立行政法人化に流れている。

失敗例が相次いだPFIを導入

高知や滋賀県近江八幡など、自治体病院事業での失敗が相次いだPFI方式。それでも、まだこの手法を試みている医療機関があると聞き、現場を訪ねてみた。

がん治療の拠点でもある東京都立がん。感染症センター駒込病院(東京都文京区)のある病室。ベッド周りを囲んだカーテンの下から突然、床拭き用ワイパーが突き入れられた。

続いて、入ってきたのはワイパーを握った清掃職員。しかし、カーテンの内側のベッドでは大腸がんの手術を終えたばかりの男性が着替えの真っ最中だった。

半裸に近い姿で、尿道にはカテーテルが入っている。突然の出来事に、着替えを手伝っていた看護師も一瞬、呆然としたが、すぐに強い口調でたしなめた。

「今は、ダメです。ここは後で掃除してください」

PFI事業をスタートさせた直後、院内では、様々トラブルが相次いだ

なかには、乳がんの術後処置を受けていた女性患者のベッドサイドに男性の清掃職員が侵入してきた事例もあった。

原因は、PFI導入にともない、清掃職員の大半が入れ替わったうえ、業務量が一人一病棟から二病棟へと倍増したことがあるとみられる。

ある看護師が「仕事に不慣れなうえ、ノルマを果たすのに精いっぱいで、ただ機械的に掃除をしていたのだと思います。以前は、長く勤めていて気心が知れた清掃職員が多く、彼らは私たちが何も言わなくても、手術スケジュールを把握していましたし、処置中のベッド周りの掃除は後回しにしてくれました」とため息をつく。

駒込病院のPFI事業は、都立病院全体の経営改革の一環として行なわれた。東京都は 、「都立病院改革マスタープラン」に基づき、当時、 16ヵ所カ所あった都立病院を8ヵ所に統廃合する方針を打ち出すと同時に、駒込病院と府中病院(現在は都立多摩総合医療センター)

など4施設でPIFを導入することを決めた。

駒込PIF事業は競争入札だったが、入札に参加したのは、大手商社。三菱商事のみ。

約1人61億円で落札後、同社や戸田建設、東京電力など五企業が出資した株式会社「駒込SPG (Special purpose No company」を設立し、清掃医事、物品管理、医薬品到達などあらゆる周辺業務を一括受託した。

都は高知や近江八幡の「失敗例」を教訓に、駒込病院の事業契約期間をPFI事業としては異例に短い!18年間としたほか、必要資金の一部は都の起債で調達することで金利を低く抑えた。

しかし、PIFスタート直後の駒込病院では、委託業務の質が落ちたとして、病院職員からの不満と批判が相次いだ。

先述の、処置中の患者のベッド周りまで掃除するというのはその一例。ほかにも「床掃除がモップから『クイックルフイパー』のような器具に変わり、汚物や血液などが十分にふき取れていない」。

「ごみが三日間も同じところに落ちていた」「若い委託先労働者が自いバスローブを着た患者に向かって『白装東みたい』と話しかけていた」

「物品の保管場所を覚えてくれない」「物品の欠品、在庫切れが多い」などの指摘があった。そして、こうした業務の質の劣化は、委託先労働者の劣悪な労働条件と関係があるという。

駒込SPCは包括受託した業務を18に細分化して、ビルメンテナンス大手「日本管財」や医療事務請負大手「ニチイ学館」など一二の協力会社に再委託。

協力会社の一部はさらに別の事業者に再々委託している。このため、委託先労働者の契約期間や給与水準は、東京都もSPCも原則、把握していない。

同じ民営化でも、全部適用や指定管理者制度であれば、自治体が委託先の事業者くらいは把握している。これに対し、事実上の孫受け、ひ孫受けが

許されるPFIでは、委託先労働者の実態はブラックボックスと化している。

駒込病院周辺では、こんな新聞の折り込みチラシが配られている。

「医療を支えるお仕事を一緒にしませんか 器具洗浄、セットアップスタッフ大募集―時給九〇〇円」

「病院内売店販売スタッフ 時給九五〇円」。

院内作業補助や清掃は時給八五〇円からのスタートだという。

いずれも生活保護水準と変わらず、都立病院という公的施設の下で、大量のワーキングプアが生み出されていることになる。

ある看護師はこんなことを言っていた。

「周辺業務とはいえ、特殊な知識や配慮が求められ、リスクも伴う職場なのに、なんの900気養も受けていない、低賃金の若い働き手が入れ替わり立ち替わり、入ってきます。」

万が一、今後、致死率の高いインフルエンザや院内感染が発生したとき、時給円の労働者に出勤してこいと言うのでしょうか。彼らが『自分の命のほうが大切です』と言って逃げ出したとしても、責めることはできません」

再編、ネットワーク化を試みた、山形・公立置賜総合病院

見渡す限りの田んぼの中、近代的な淡い色調の八階建ての建物がひときわ目立つ。

公立置賜総合病院(山形県川西町)。山形県南部の置賜地方の高度、救急医療を担うため、2000年11月に新設された基幹病院だ。二次医療圏・置賜医療圏の各自治体は公立病院の生き残りをかけ、全国的にまだ先例の少ない「再編。ネットワーク化」を試みた。

米沢市と長井市、南陽市、川西町、飯豊町など三市五町で構成される置賜医療圏は、山形県内で唯一、県立の医療機関がなかった地域。

民間の医療機関が集積している米沢市以外の地域では、「山形や米沢で助かる命も置賜では助からない」とも言われ、県立病院に相当する医療機関の開設は住民にとって長年の悲願だった。

しかし、県財政は厳しく、県立施設の誘致は困難。

このため、米沢市とすでに病院改築をすませていた自治体を除く、二市二町(長井市、南陽市、川西町、飯豊町)は山形県と共同で一部事務組合「置賜広域病院組合」を発足、総事業費三〇四億円をかけて基幹病院。

公立置賜総合病院を新設した

同時に、周辺の既存の自治体病院(公立置賜長井病院、公立置賜南陽病院、公立置賜川西診療所)はベッド数削減や無床化などで規模を縮小させ、サテライト(衛星)施設とした。

同組合内全体で見るとベッド総数は812床から680床に削減し、医師は57人から70人(発足当時) へと増員。基幹病院は高度、救急医療を、サテライト施設は慢性期や初期医療をそれぞれ担うことで、医療圏内での機能分担をはかった。

朝10時、公立置賜総合病院の駐車場には外来患者の車が続々と乗りつけ、約100台の駐車場はあっという間にいっぱいになる。

受付や会計がある中央ホールは吹き抜けで、太陽光がたっぷりと降り注ぐ。内科や小児科、産婦人科など合わせて一七科ある各科の待合スペースは患者であふれかえっている。

救命救急センターも併設され、かつては、山形や米沢まで搬送するしかなかった脳卒中や心筋梗塞にも対応できるようになった。

乗り合わせたタクシー運転手は「お客さんの中には、近くにサテライト施設があっても置賜総合病院まで足を運ぶ人がいます。新しくてきれいだし、お医者さんも大勢いるし。待ち時間が長くて半日がかりですが、安心料だと思えば安いものなんでしょう」と話す。

一方のサテライト施設

置賜南陽病院は再編に伴い、ベッド数が251床から50床に削減、常勤医も当初予定の7人から3人に減ってしまった。訪れた院内の廊下の人気は少なく、靴音だけがコツコツと響く。

案内してくれた職員が「昔はもっと活気があったんですがね」と言う。

女性患者の一人に声をかけると、「お医者さんの顔ぶれがしょっちゅう変わったり、突然、休診になったりするのは、ちょっと困るねえ」と話していた。

川西診療所は98床あったベッドを無床化

使われなくなった病棟の壁にはひびが入り、配管がさび付いたままさらされている。廃墟というほどではないのだが、病院の近くに住む住民はその姿を目にするたびに不安になるという。

「以前は、入院もできて、お医者さんも町内に住んでいたんですよ。今は皆、総合病院のほうに行かれてしまって」

確かに、新設の置賜総合病院に比べ、サテライト施設は一様に老朽化が進む。機能分担といえば聞こえはいいのだが、サテライト施設周辺では「切り捨てられた」と受け止めてしまう住民もいるようだ。

公立置賜総合病院の弊害

こうした「格差」はほかにもある。

医師数は2009年度までに88人に増えたが、そのほとんどは置賜総合病院に集中している。

逆に、サテライト施設の医師は不足しており、置賜南陽病院と同じく置賜長井病院でも常勤医は再編直後の6人から4人に減った。

再編後、病院への医師派遣は山形大が担っているが、医師の多くが設備や症例が豊富な置賜総合病院での勤務を希望し、なかには派遣の条件として「サテライト施設では勤務させないこと」と提示してくる医師もいるという。

医師不足の影響もあり、サテライト施設の一日平均外来患者数は当初計画の見込み800人に対し、2009年度は532,2人と、見込みを大きく下回った。

反対に、置賜総合病院は当初計画で「1000人程度が許容限界」としたにもかかわらず、1000人を超える年度が続き、同年度も970,2人と上限に迫る水準だった。

再編後、サテライト施設は思うように患者が集まらない一方で、置賜総合病院では患者の「大病院志向」に頭を痛める状態が続いている。

こうした現状を前に、再編化前からサテライト施設に勤務する、″非山形大系〃の医師の一人は「医師は優先的に置賜総合病院に配置されており、これではサテライトの患者数がジリ貧になるのは当然。

われわれサテライトは(必要とされない)盲腸と同じです」と不満を訴える。

まとめ

再編・ネットワーク化により、確かに、当初の狙い通り、機能分担や財政基盤の強化はある程度進んだ。医師不足のなか、偏りはあるものの、組合全体では医師数を増やすことにも成功した。

何より、この地域で「助からなかった命」が助かるようになったことの成果は大きい。

総務省はメディァなどに対して置賜の試みを成功事例として紹介している。

一方で、基幹病院とサテライト施設の格差は当初の予定以上に広がった。

機能分担に伴い人材や資源を集約する以上、格差が生じることは避けられない。

ただ、その格差について、住民や患者への「インフォームドコンセント」は十分だったのか、あるいは、住民や患者はどの程度までの格差であれば受忍するべきなのか。

置賜の「成功」の陰ではそんな課題も浮き彫りになっている。


この記事に使用している「DRハウス」の写真「Alibaba Group」から引用させて頂いています。
https://ja.aliexpress.com/cheap/cheap-dr-house-poster.html

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