新人看護師が離職を決意する理由は不十分なOJT指導

看護に生きがいを感じる

この数年来、看護界では新人看護師の離職率の高さが常に問題にされてきました。その数値は、同世代の新規学卒者(大卒)と比較した場合、ことさら高いとは言えませんが、それが議論の的になるのは、超高齢社会の到来と共に看護職の需要が高まる中、少子化によって今後看護職を目指す若者の実数が減少することが予想されるからです。

また他の職種に従事する場合に比べ、実習を通して実務に触れる機会が多いにもかかわらず、就職して間もない時期に1割弱が離職するという現実は、危機感を持って受け止められています。2010年4月より新人看護師の卒後臨床研修の強化が努力義務となったのもこの経緯からです。

新人が離職を考える時期

卒後臨床研修の強化が図られる前のデータですが、多くの新人看護師は、就職して3カ月前後に何らかの危機に遭遇していることが分かります。看護職に就職して間もない時期における、学生から職業人への軟着陸に向けた指導がいかに重要であるかを示すものと言えるでしょう。

若者の就労意識

日本生産性本部/日本経済青年協議会「平成25年度新入社員(2,154人)の『働くことの意識』調査」によれば、「定年まで勤めたい」と望む若者の割合は33.5%と、過去最高を記録しました。これは、景気後退の中で、長期にわたる雇用の「安定」「安心」志向が強まっていることを反映しています。

新卒看護師1年目の離職率

新卒看護師1年目の離職率
参考画像:内閣府:平成25年版子ども。若者白書

「感謝される仕事をしたい」「専門技能を身に付けたい」が上位に挙がっており、雇用の不安が少なく、将来的に「安定」「安心」が保証される職業へのニーズが高くなっています。こうした面から看護職は、いまの若者の就労意識に合致した職種と言えます。

新人看護師が離職を考えた時期

離職を考えた時期 割合(%)
就職してすぐ 34
5月頃 40,1
6月頃 49,3
9月頃 47,1
そのような考えはなかった 15,5
無回答 0,7

しかし、就職して間もない半年足らずの時期は、長期の実習を経験しているとはいえ、一人前とは程遠いのが実情です。しかも「その場で考える時間も、立ち止まって確認したり学んだりする時間もない」「日々の仕事に追われる」「こんな調子では、この先仕事を続けることは自分には“ムリ”だ」「自分が目指していた看護は“これではない”」などの思いが重なり、離職の引き金となっていると考えられます。

新入社員の就労意識

1位:社会や人から感謝されたい仕事に就きたい 95,7
2位:仕事を通じて人間関係を広げていきたい 95,6
3位:どこでも通用する専門技能を身に付けたい 88,9
4位:高い役職に就くために少々の苦労をしても頑張る 86,0
5位:終身雇用ではないので会社に甘える生活は無理 84,9
6位:仕事をいきがいとしたい 80,1
7位:仕事をしていくうえで人間関係に不安を感じる 62,7
8位:面白い仕事であれば収入が少なくても構わない 60,0

表2は就職して間もない時期に、新社会人の50%以上が肯定したものです。「仕事を通じて人間関係を広げていきたい」と考えると同時に、その一方で「仕事をしていく上で人間関係に不安を感じる」者も少なくありません。人間関係に対して相反する気持ちが混在しており、就職直後の人間関係形成が職場定着の鍵になることがうかがえます。

コミュニケーションに対する苦手意識

新人看護師の大半を占める新規学卒者の場合、長年の学校生活では、価値観を共有できるもの同士のかかわりが大半であり、そこで重視されるのは互いに「空気を読む」ことです。すべてを口にしなくても“阿咋の呼吸”でことを進めなければなりません。

しかし、いったん社会へ出ると、そこで遭遇するのは年齢も価値観もニーズも異なるさまざまな人とのかかわりであり、これまでのような「空気を読む」関係は成立しません。相手がどのように感じるのかを考えるには、相手と積極的にコミュニケーションを取らなければつかめません。当たり前のことですが、黙っていては、自分が相手を理解できないだけではなく、相手もまた自分のことを理解することができないからです。

近年、インターネットやメールを用いたやりとりが増加し、その時間は、ひとと直接顔を合わせる付き合いの2倍に上るという調査結果が明らかにされています。中でもSNSやTwitterなどのソーシャルメディアによるコミュニケーションが盛んですが、書き込みは誰かからの反応を期待して行われ、一般にそれへの批判や反論がなされることはあまりありません。暗黙のうちに互いに褒めたり励まし合ったり慰めたりする心地よい関係が期待されているからです。

しかしながら仕事では、直接的なかかわりを避けることはできません。また、期待に反して反論や叱責が自分に向けられることも稀ではありません。彼らもコミュニケーションの難しさは予想してはいますが、実際に経験していないことを社会人となってから実践するのは難しいことです。

これは企業における営業職向けの新入指導研修ですが、得意先開拓のために「ただ飛び込めと言っても新人は右往左往するばかりなので、(あらかじめ)アンケートを用意して(顧客との)会話の糸口を(新人に)与えるなど、工夫が必要」という指摘もあり、従来からのOJTに頼った新人指導では不十分だという指摘もなされています。

指導者や先輩は、新人には、「仕事はまず、周りの人間とやりとりをして確かめながら進めていくことが大切だ」と繰り返し伝えましょう。コミュニケーションは、相手とやりとりをして互いの情報や感情を共有するために行うものです。先輩は日頃の友だちづき合いとは異なる職場でのコミュニケーションのよきモデルとして、実例をよく見せてやってください。看護はまずコミュニケーションから始まると言っても過言ではありません。

OJTとは

看護師の技能は,臨床の経験に由来するものが大きく、仕事をしながら多くの技能を身につけていく。一般に職制の長、もしくは職場の先輩が職場内で仕事をしながら、報告、命令などの機会をとらえてその仕事に必要な情報や経験を計画的に、目的を意識して教えることをOJT(On The Job Training)という。

看護職の場合は、その担い手は必ずしも職制の長(看護師長等)とは限らず、先輩看護師であることが多いが,看護師の技能は,まさにOJTの基に成り立っている。

新人が抱きやすい思い込み

いまの若者は「叱られ慣れていない」と言われています。注意を受けると、「自分はダメだ、能力がない」「この仕事に向いていない」と感じ、「私はここでは必要とされていない人間だ」というところまでエスカレートしてしまうことも稀ではありません。注意されたり叱られたりすることと嫌われることを同じ意味にとらえ、自己評価を低下させてしまう例も散見されます。

叱られるのは自分の能力が乏しいためである

指導者も業務を遂行しながらの指導であることが多いために、その対応には苦慮すると思われますが、「それはダメ」「違う」と、できない事実を指摘するだけに終わらせず、どうなるとよいのか、どのようなやり方や配慮がほしいのかといった、達成した状態を予想できる助言が望まれます。

ただ一方で、注意されてもかえって「きちんと教えてくれない方が悪い」「学校では習わなかった」と、注意されたことを自分のこととして受け止められない新人もいます。受け止め方は多様化しており、一通りの指導では十分でないと言えます。

社会人となるまでの学びでは、問題はあらかじめ提示されていましたし、それらには正解がありました。しかし、ひとたび社会へ参画すると、課題は自分で見つけるものだとされ、正解も1つではありません。課題を自分で見つけるように言われても、どのように探索すればよいのか戸惑います。自分なりに何をどのレベルに持っていきたいのか、そのために解決したいこと、すなわち課題は何かといった、身近な課題の探索から指導していきましょう。

新人は一人ひとり大切に指導されるべきだ

職場では、問題は基本的には自ら調べたり周囲に尋ねたりして行うものです。しかし、最近の風潮として、指導は分かりやすく丁寧に行われるべきで、教えてくれないのは不親切だという受け止め方があります。学校教育においては、努力すれば褒めてもらえることが多く、頑張れば認めてくれるはずという思い込みが強い傾向にあります。

したがって「自分なりに努力しているのに、先輩や上司は少しも評価してくれない。そればかりかできないことを指摘されるだけ」と感じてしまうと、そこに生じるのは不満のみです。

また教育機関では近年「面倒見のよい教育指導」「一人ひとりに目を配る丁寧な指導」を売りとしているところも多く、一人ひとりを大切にした指導が望ましいとされます。このことが逆に実務に就いたとき、落差が大きく感じられ、つき離されたように感じたり孤立感を深めたりする一因となっていることも否定できません。

新人看護師をめぐる調査

正看護師は2,895時間に及ぶ実習を経験した後に就職しますが、日本看護協会「新入看護師の看護基本技術に関する実態調査」(2002年5月)によれば、新人看護師の7割以上が「入職時1人でできる」と認識している技術は103項目のうちわずか4項目であり、新入自身が自分の仕事の力量に不安を抱いています。実習を経験しているだけに、自分の力と看護職として期待される水準とのギャップがあまりに大きいとき、看護師としてのアイデンティティが揺るぎかねず、自信喪失の大きな原因となります。

「満足にできることがない」「与えられた業務の、 どれから手をつけたらよいかが分からない」「どこが分からないのかが分からない」「その場で判断し行動することが求められる」など、立ち止まることが許されない現実に、息苦しさを感じていると言ってよいでしょう。

辞めるひとと、とどまるひとの差

看護師になったものの一度は「辞めたい」と思った新人は8割を超えますが、実際に離職した者は1割弱です。では彼らが離職をせずにとどまった要因は何でしょうか。

一つは、不安を共有する同期の存在や、よきモデルとしての先輩看護師の存在でしょう。小規模の施設ほど離職率が高いのは、新入ならではの心細さを共有できる同期が少なかったり、指導に当たる先輩看護師に余裕が乏しかったりするためと考えられます。同期が交流する場を設け、従来の育成方法にこだわらずに、新人が困っていることを理解し、一緒に解決していこうという先輩の存在が欠かせません。

「自分が新人のときにはもっと厳しく指導された」「いまの新人は甘えている」という過去の自分の経験に基づいた見方や判断は避けたいものです。もう一つは、新人の技術や知識に対する不安をきちんと受け止めることです。医療過誤は新人期ほど多いのは確かですし、看護職員の人的配置に余裕がない施設ほど多くなります。就職して3カ月日頃までの期間に、基礎的なスキルの習得、つまり1人でもできるスキルを一つずつ着実に増やし、本人たちが自らのキャリア発達を実感できるようにすることが早期離職の減少につながるでしよう。

たとえば、Bさんの職場には、 4年制大学卒業生と看護専門学校卒業生が配属されていましたが、専門学校卒業生はBさん1人でした。新入期は誰しも辛い時期ですが、心身の辛さを共有できる同期がいなかったために、その辛さを自分の力のなさゆえととらえてしまったことが、離職の遠因と言えるかもしれません。まじめで弱音を吐かない新人の場合、周囲はなかなか気づきにくいものです。

しかし先輩看護師は、スキルや知識の習得に先立ち、彼らが「助け合う関係、温かく穏やかな関係、素直に自己表現できる関係を求めている」ことを念頭に、まず職場内で話しやすい関係をつくることに腐心してほしいと思います。

このケースは、その背後に「失敗するのが恐い」「できないと評価されるのを避けたい」という心理が働いています。ただ、指導者としては、新人がプリセプターを頼りにしていること、不安なことは口頭で確認を取ろうとしている姿勢については積極的に認めたいところです。

ここであまり早い自立を強調しすぎると、突き放されたように感じ、職場に同期が少ない、もしくは同じ教育機関から就職している仲間が少ない場合には、特に孤立感を深めてしまいがちです。

早期離職を防ぐために

「新卒看護職員の早期離職等実態調査」(2004年)では、新卒看護職員の職場定着を困難にしている要因の一つとして、病院および教育機関の7割以上が「現代の若者の精神的未熟さや弱さ」を挙げています。しかし仮にそうであるとしても、それらを早期に解消することは難しく、指導者の教育力の向上と教育環境の改善を図る他、道はありません。

看護師のキャリア発達の「見える化」を

まず、新入看護職員と指導者のいずれもがキャリア発達を実感できるように、好ましい変化の「見える化」が必要です。「実施したこと」「できるようになったこと」「できるようになりたいこと」を、就職した当初は毎日(慣れてくれば1週間ごとでもよい)所定のノートに記し、それを指導者に見てもらいます。

できれば指導者の肯定的なコメントが一言あるとよいでしよう。記録を見れば、日々の成長を本人も指導者も実感できるでしょう。成長を単にイメージとしてとらえるのではなく、文字で表すことによって、一日の振り返りや自分の職務上に期待されるスキルや知識の意識化にもつながるでしょう。そして何よりも「認めてほしい」という新人の心理に寄り添うことができます。

  1. 基本的なスキルを確実に習得する
    何をどの程度、いつまでにと、日標を確認しながら指導しましょう。ただ習得の程度には個人差があり、まずはできることが着実に増えていることと、達成に向けて努力している点を認めます。新人期の不安を和らげるには、好ましい変化をとらえた評価が求められます。新人看護師のリアリティショックが基本的なスキルを習得することによって改善されることは研究からも明らかです。
  2. 夜勤のロ―テーション入りを遅らせる
    しばしば指摘されることですが、新人の戦力化を急ぐのではなく、いくつかの病院や施設で試みられているように、夜勤のローテーション入りを遅らせる、ないしは夜勤時のサポート態勢の充実を図ってはどうでしょうか。また、プリセプターのみに指導を委ねるのではなく、病棟全体で育成する姿勢を共有することが望まれます。プリセプターが疲弊してしまい、プリセプターの離職率が上がってしまうケースが散見されるからです。プリセプターの支援体制も合わせて考えましょう。
  3. 新人研修の充実を図る
    新人、指導者ともに実務に携わりながらのOJTだけではきついものです。いま若者は、実に多様な進路を経て看護師となります。学んできた教育機関が異なるだけではなく、他の職種を経験してきた年長者もいれば、他の専門を学んだ上で進路変更を経て看護を学ぶ者も少なくありません。看護という職業に対する価値観も働き方に対する考え方も、さらには身に付けてきた看護に関するスキルや知識水準も多様です。高度化する看護に対応するためにも、ときおり実務から離れた場で新入研修の充実を図ることも必要でしょう。研修の副産物として同期が顔を合わせることは、職場内での孤立感を防ぐ上で有効です。

まとめ

新人世代の特徴を踏まえた上で、看護職からの早期離職をいかに防ぐべきかの具体策を解説しました。繰り返しますが、新人が就職して間もない時期は、学生から職業人(看護職)への「軟着陸」へ向けた指導が重要です。本稿がその軟着陸に向けてのお役に立てば幸いです。

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