即戦力の看護師を確保するための中途採用看護師育成の存在意義

中途採用看護師は、期待する役割行動をとってくれない

看護にかぎらず日本全体の雇用のあり方は、1990年代から大きく形を変えてきました。100%に近かった企業の正社員比率が70%以下に落ち込み、即戦力となる人材を派遣社員やパート従業員に切り替えることで、人件費をおさえ経営の効率化を限界まで推し進めてきています。

その結果、目先の利益と効率性だけを追いかけて、本質的な人材育成を後回しにした組織は、働く人の疲弊と組織の弱体化におちいっています。組織に人を育てる力がなければ、底辺から組織を支える人材はやがて1人もいなくなり、組織そのものが衰退してしまうのです。

看護師の人材育成に苦労している現況

今、多くの企業は正社員や派遣社員・パート従業員といった働き方の違いを越えて、人を育てることのできる組織。人が育つ現場をどうやってつくりあげるかに苦心しています。厳しい環境にある一般企業は生き残るために「即戦力の確保」から「共に働く人を育てる」への転換に取り組んでいます。

このような転換こそ、これからの看護に欠かすことのできない組織のあり方なのです。

経験年数や年齢は指導を難しくするのか「新卒看護師とは違って経験者の指導は簡単にはいかない」、「中途採用看護師は個性や能力がさまざまで、基本的な教育スケジュールで対応できない」、「経験年数や年齢が高い場合も多く、指導そのものが難しい」中途採用看護師の育成に関しては、多くの看護現場でこのような意見が聞こえてきます。

その背景には、新卒看護師と比較して、中途採用看護師はその職務経験がばらばらで、個性が多様なので、ひとくくりに考えて指導しても決してうまくいかないという現実がうかがえます。

常勤看護職員と他産業の離職率

常勤看護職員の離職率出典:新規学卒者の離職状況に関する資料一覧(厚生労働省)

中途採用看護師へライフスタイルや将来設計を求める

経験や能力が多様な中途採用看護師に対して、その個別の特性を細やかに査定して、スムーズに組織への適応をはかるには、受け入れ側の力量が問われます。そのためには、中途採用看護師への要求を提示するばかりでなく、個人の望むライフスタイルや将来設計も含めた、仕事に対するさまざまな欲求をしっかりと知ることからスタートする必要があります。

「そんな面倒なことはできない」それなら、最初から人材育成はあきらめたほうがいいかもしれません。

組織への定着は本人の意向を無視しては絶対に成立しません。受け入れ側の要求を一方的に突きつける方式では、中途採用看護師にかぎらず、やがて多くの看護師がその組織を離れていくことになるでしょう。

多様な背景と価値観をもつ中途採用看護師の特性を的確につかむには、まずは既成概念にとらわれることなく間回の広い考え方で、相手の情報を把握することが必要です。同じ中途採用看護師といっても、 どれだけの看護実践能力をもっているのか、 どんな専門領域に興味があるのか、単に看護に関連した情報だけでは、その人の個性をつかむことはできません。

どんなライフスタイルを大切にしたいのか、 どんな風に働きたいのか、働き方についての考え方は1人ひとりまったく違うことを常に認識することが大切です。さらに、この施設で看護師として働くことがその人の何を実現することにつながるのかを、お互いが認めあうことからスタートできるのが理想的でしょう。

仕事で自分の能力を高めながら、同時に家庭や趣味でも充実した時間を過ごしたいと考えるタイプや、仕事よりも私生活の充実をいちばん大切にしたいという価値観の人、何がしたいのかがわからず悩み続けている人、認定看護師資格取得といった明確な目標のために新しい職場を選ぶ人まで、経験を重ねた人材であればこそ、それだけ多様さは増してきます。

それぞれの個性を認め、実際の職場でそれに応えるかかわりを実現することが大切になるのです。

人が育つ組織づくりをいかにして実現するか中途採用看護師を特殊な存在にしているのは、実は、受け入れ側の先入観や高すぎる期待値だという考え方ができないでしょうか。

新卒看護師の育成に関しては、 じっくりと新人を育てる環境が大切という共通認識が多くの看護現場で醸成されつつあります。その一方で、中途採用看護師については、即戦力としての期待も大きく、 ともすれば受け入れ側の事情や要求が優先されてしまいます。

「新人は新人、中途採用はまた別」では、人材育成に関する組織の考え方に何の説得力もありません。新卒看護師であろうが、年度の途中で入職した経験者であろうが、組織として人を育てるということには変わりはないのです。

中途採用看護師の育成と定着のために

「人を大切にする病院です」、「お互いが学びあう環境を何よりも大切にしています」そんなすばらしいビジョンが掲げられた施設で、面接した看護部門のトップもすばらしい方だった。でも、実際に働く部署ではまったく違っていた。

これは、看護という領域にかぎらず、あらゆる組織でありがちな現実です。お互いに対等な立場で、お互いを育てあう組織を現実のものとしてつくりあげることが、それだけ難しいということの証なのです。

今、多くの企業が取り組み成功している実践は、実はきわめてシンプルです。

明確なビジ∃ンを共有する

ビジ∃ンを実現するために具体的に行動する。あきらめずに繰り返しやり続ける。すばらしいビジョンは実現するための具体的方法がなければ、逆に失望につながってしまいます。お互いが育てあう組織を実現する具体的な方法をたどっていくと、そこには組織に所属するすべての看護師が、自分自身の行動を自ら決定して目標に向かって努力することの必要性がみえてきます。

それは看護職としての自律した姿であり、学び続けることは1人ひとりの看護師の責任です。だからこそ、相互に尊重し信頼しあえる関係を築き、学びあう環境をもつ組織をつくることが大切なのです。

中途採用看護師を今のやり方で伸ばせるのか

在院日数の短縮化や2006(平成18)年度診療報酬改定による看護配置基準7対1の導入、医療事故の防止および患者や家族に対する説明責任の強化など、臨床での看護師に求められる実践は確実に拡大しているなか、あれもこれも教えなければならない項目が増えるばかりです。

そしてこのことは、新卒看護師や中途採用看護師の超早期離職や、教育のプレッシャーによる教育担当者の疲弊へと形を変えて現れているのが現状です。

現場で働いている立場からいえば、中途採用看護師に対しては「とにかくできるだけ早く仕事を覚えて“一人前”になってはしい」というのが正直な思いです。

その気持ちから、中途採用看護師を迎える看護管理者や部署の教育担当者は、中途採用看護師に対して「1分でも早く戦力になる」ように、「この施設・部署での“教えるべきこと”を可能なかぎり早く教える」ことが教育の中心になることがあります。

中途採用看護師の経験や実績をいかす

そのため、部署における主な看護技術が「早く1人でできる」ことだけを目標に、中途採用看護師を指導することになってしまうようです。つまり、中途採用看護師の経験や実績をいかすことよりも、この部署でのやり方を一方的に教えるという方法におちいります。

しかし、この方法では、中途採用看護師の適応も技術習得も、期待しているほど進まないと多くの教育担当者が感じています。

では、「看護技術チェックリストの○ (マル)が増えるためだけの知識。技術の習得」は、本当に“一人前”の看護師に育っていることなのでしようか。

新卒看護師教育においても、教育担当者はこのことを常日頃疑間に感じています。同じ方法をそのまま中途採用看護師の教育に当てはめることは、効果的な教育といえるのでしょうか。


参考動画:youtube
栄養士や看護師など資格を持つ女性の職場復帰を後押しする笠間市主催の「復職支援研修会」

すぐに使えるスキル獲得だけが現場の教育なのか

施設での教育は、すぐに役立つ看護師としての知識・技術・態度が、実践でどう使えるかの行動レベルで求められることが多くみられます。それは、一人前の看護師を育て、早く即戦力となることを期待するからなのかもしれません。

しかし、残念なことに「その部署での一人前の看護師」に育ってしまうことが多くみられます。そのため、他部署へのローテーションや、他施設への転職時において、多くの看護師は自信がもてず、「新人と思って指導してください」として、これまでの経験や実績がなかったかのよう「○○から学ぶ」、「新入と考え指導します」といった教育を受けることが繰り返されてきました。

一般企業においても、人材育成は同様に行われてきました。かっては、単に「人を育てる」といったあいまいな目標で語られ、人材育成は部署に丸投げされていました。しかし、昨今の複雑で速い情勢の変化、競合他社との競争にさらされるなか、人材育成は「知的生産性の向上」、「組織パフォーマンスの向上」、「競争力の向上」といった経営戦略と連動し遂行するもの、戦略的HRM(strategichuman human resource management)とされています。

すなわち、人材育成の目的は人格形成や知識・スキルの習得ではなく、知的生産性の向上であるといえるでしょう。
中途採用看護師の教育のサポート、研修体系等については、中途採用看護師の教育をサポートするをお読みください。研修体系表等、具体的なサポート体制をどう考えるか?について詳細に書かれていますので参考にしてください。

学習する組織

デイビッドA.ガービンらが提唱する学習する組織の構成要素として、以下の3つの要因に焦点が当てられます。ここではそれに基づいて、学習する組織について考えます。

  • 学習を支える環境
  • 学習プロセスと学習行動
  • 学習を促進するリーダーシップ
  • 学習を支える環境を整備する

まず、「精神的に安全である」という環境が重要です。中途採用看護師が素朴な疑問や意見を述べたときに、煙たがられたり、意見を無視されるような状況では学習は起こりません。自分の業務について、気軽に意見を言える環境が必要です。

次に、「意見や価値の違いを尊重する」ムードがあげられます。中途採用看護師が以前働いていた施設とのやり方の違いや意見を教えてもらった際に、お互いに異なる価値観を認めあえることがポイントです。それは、今後予想もしない問題が起こった際に行動できることが増え、新しい発想に結びつくよい機会となるでしょう。

「うちはうち、よそはよそ」の考えでは、急激に変化する医療に対応できる選択肢が狭まってしまいます。

最後に、「内省の時間」を積極的にとることです。業務が多忙をきわめ、過剰なストレスにおかされると、自分が行った看護実践を振り返って分析し、今後の課題を見いだすことは困難です。看護実践のなかで、業務を振り返る時間を確保し、業務のプロセスを検討することは、学習を支える環境といえるでしょう。

学習プロセスと学習行動を理解する

教育担当者の役割は、新卒看護師や中途採用看護師に「この施設や部署のやり方を教え込む」ことだけではありません。

近年の教育学、認知心理学の分野では、学習者(ここでは中途採用看護師にあたる)は、知識を伝達されるためだけに存在するのではなく、他者との相互作用から経験を意味づけ、 自分で知識をつくりあげて構成していくものである、という考えが主流になっています。

つまり「教え中心」、「教育者・指導者中心」の教育から「学習者中心」の学習支援の考えへの転換が活発化しているのです。看護界においても、「教育者。指導者中心」の知識伝達が主流の教育となり、知識を覚えることがよしとされてきました。

やがて、看護学生の学習方法が記憶中心となり思考しなくなってしまうことが問題視され、教育方法を考え直すべきだという議論が高まりました。そして、学生と教師の相互作用を通して、お互いが学ぶ力を発揮できるような柔軟なカリキュラム、統合的で実践的な発想への転換がはかられ、1987年に米国で「カリキュラム・レボリューション」が発表されました。

さらに「ケアリングカリキュラム」においても、カリキュラムとは、学習を起こすという意図をもった学生と教育の相互作用であり交流であると指摘されています。

専門職業人としての看護職の育成は本来、知識・技術。態度をいかに教えるかということだけにとどまらず、本人が自ら学び、知識や技術を修得し成長することをいかに支援するかにあるのだといえます。

この考えに立ってみると、新卒看護師であろうが、中途採用看護師であろうが、「何を教えるか」から、「どのように学習を支援するか」への発想の転換が必要になることがわかります。

参考:継続教育の全ての過程

基本的には、教育の計画立案・実施・評価のことです。

継続教育の全ての過程出典:日本看護協会

オトナの学びの特徴を知る

中原らは、オトナの学習として、成人教育学者の諸理論をまとめた「P-MARGE」を提唱しています。

  • P:Learners are Practical.(オトナの学習者は実利的である)
  • M:Learners needs Motivation.(オトナの学習者は動機を必要とする)
  • A:Learners are Autonomous.(オトナの学習者は自律的である)
  • R:Learners needs Relevancy.(オトナの学習者は関連性を必要とする)
  • G:Learners are Goal-oriented.(オトナの学習者は目的志向性が高い)
  • E:Learners has life Experience.(オトナの学習者には豊富な人生経験がある)

まず、オトナは、現実の臨床における課題を解決するために、必要性を感じたときに学びたいと考えます。つまり、業務や役割を遂行するうえで生じた問題を解決したいなど、学ぶべき内容に関連性を見いだします。

そのため、ただ学習する、ただ勉強することに価値を見いださず、たとえば、必要に迫られるといった具合になんらかの学習動機が明確にならなければ、学ぼうとはしないのです。

また、コドモは教育者主導の学習であるのに対して、オトナの学習は自発的かつ学ぶ内容を自分で決めたいと考えます。さらに、自分の経験を学習のなかでいかしたいと感じます。

つまり、たくさんの経験を有している中途採用看護師を育てるためには、その学びの特性をよく理解して、それを強化することを考えるべきでしょう。

たとえば、「そのやり方はおかしい」、「定時に帰宅したい」などの中途採用看護師の自分勝手な主張とみえるようなことも、「それをクリアするためには、あなたは何ができるか」、「それに対して、 どんなサポートが私にできるか」と、その人の問題や課題を解決する大きな学習機会にすることができるのです。

学習プロセスはさまざまなとらえ方がありますが、ここではシンプルに学習を知識獲得のプロセスととらえることにします。それは、知識の創造、収集、解釈、共有の4側面からなります。

知識はさまざまな形でつくりだされます。また、すでにあるいろいろな事実として集められた知識もあります。これらの知識についての解釈では、問題の発見や解決を見いだす分析などが行われます。

最後に、必要だと判断された知識を能力開発の教育や研修の形で共有するのです。この共有することによって、効果的に知識を獲得していくことになります。

知識共有としての学習

学習は、「何かを暗記すること」や「やり方を覚えておく」という行動の1つの側面をとらえるものではなく、プロセスであることがわかります。

中途採用看護師の教育にあてはめると、今、部署で必要な知識や技術を獲得するためには、マニュアルを暗記することが必要ではなく、教育担当者や看護管理者と中途採用看護師が共にプロセスを歩むことが求められるのです。

教育成果を臨床で発揮するのは個人の責任がかつて、企業の人材育成において、個人の学習成果が組織のパフォーマンス向上に結びつかない原因は、 もっぱら個人にあるとみなされてきました。

現場の組織に起因する問題は何も問わず、「現場で実力を発揮できるレベルにまで、個人が成長していない」や、「現場では役にたたないような知識・スキルを学んできた」といった個人の責任で片づけられてきました。

そのため、それに応えるために、「どのようにしたら、研修で学んだ内容を現場で応用できるか」や「現場でいかせる教育内容や方法はどうしたらよいか」といった新たな教授法と教材の開発が進められてきました。

このような状況に対して、1990年代初頭に、革新的な枠組みを提唱したのが、レイブとウェンガです。それは、「個人としての学習成果をいかに組織としての仕事に結びつけるか」という考えを否定し、この問題の前提にある「学習と仕事」、「個人と組織」といった認識を変え、「正統的周辺参加」という概念を提唱しました。

正統的周辺参加論が従来の学習論と異なる点は、学習を共同体での活動への「参加」ととらえることにあります。この正統的周辺参加論のなかで、彼らは「仕事のなかの学びにこそ本来の姿がある」という主張をしています。

つまり、「学習したこと」を「業務にいかす」という考えではなく、共通の目標達成のために集まって、業務を通じてチームに参加し、自分の役割を認識し、価値の異なる人と議論しながら、その仕事に参加することは豊かな学習であるということです。

このように考えると、仕事の仕方次第で価値の高い学びにつながるということです。これによって、中途採用看護師が「自分の担当業務をうまく遂行した」という個人レベルにとどまらず、「病棟全体にとって、いい結果が得られた。成果をあげられた」という組織レベルのものとなりえるのです。

看護師育成のコアとなる考え方=スポンサーシップ

ここまで述べた学習を支える環境を実現するには、人材育成における新しい考え方である「スポンサーシップ」が、とても有用です。

スポンサーといえば商業的な意味を想起しがちですが、この言葉には金銭的な面だけでなく、あらゆる面からまだ“一人前”でない人の支援を引き受けるという意味があります。

モチベーションを強化する利点がある

スポンサーシップは、人材育成における新しい人間関係のあり方として、モチベーションを強化するという点からも注目されています。スポンサーシップとは、「その人が最高のパフォーマンスを行えるように、相手の個性を見極め、それを承認し発展させること」だといえます。

この考え方は、人材育成において、とくに中途採用看護師を指導する立場の看護師たちに、何を大切にすべきなのかを明確に示してくれます。

人はさまざまな出来事に対する相手の行動によって、自分が現在の環境とどのように向き合っているかを評価しています。たとえば、中途採用看護師は「何を」教えられたかではなく、「どのように」教えられたかによって、

  1.  私はここで大切にされている。
  2. 私はここにいても大文夫。
  3.  私はここで無視されている。
  4. 私はここでは迷惑をかけている。
  5.  私はここでは問題だ。

というように、さまざまな受けとめ方をします。それをわかっているからこそ、「私は毎日安心してここで働ける」と中途採用看護師に感じてもらうために、看護管理者や教育担当者は「ほめる」、「温かい雰囲気をつくる」などのさまざまなやり方を工夫していることと思います。

なぜ人材育成において重要なのか

人は、① のように周囲から大切にされているというメッセージや、② のように周囲に対して安心だと感じると、緊張から解放されて穏やかな気持ちになり、周りに対してある種の忠誠心さえもつようになるといわれます。これはスポンサーシップが提供されている状態であり、モチベーションを育てる基本になります。

一方で、① のように無視されている。関心をもたれていないという気持ちになるのは、スポンサーシップのない状態といっていいでしょう。このようなとき、人は不安や心配、空しさ、反発などを抱くものです。④や⑤では、否定的なスポンサーシップがメッセージとして発信されています。

恥ずかしさ、悔しさ、悲しみ、罪悪感などを喚起するのがこのようなメッセージの特徴です。

反発や罪悪感などの否定的な感情は、一時的に中途採用看護師の「今にみていろ!」という気持ちに火をつけて、 さまざまな努力に向かわせることもあるでしょう。実際に現場で指導的な立場にある多くの看護師は、そうやって成長してきています。

しかし、これでは長期に安定的なモチベーションを維持することはできません。それどころか、仕事上のストレスは増大する一方であり、また、次の世代の人材育成にも同じような悪循環を生じさせてしまうでしょう。

何がお互いにとって合理的なやり方なのか、少し考えれば答えは明らかです。そこで、中途採用看護師教育で看護管理者や教育担当者に必要なスポンサーシップとは、

  1. 中途採用看護師のもつ基本資質や能力を見つけ、守る。
  2. 日個人または集団が、そのユニークな才能や個性を最大限発揮できるような環境、支援、資源を提供する。

ことだと考えられます。

スポンサーである看護管理者や教育担当者は、ロールモデル、つまり看護師たちのお手本であることにこだわる必要はありません。むしろ、すべての看護師が自らの独自の能力や技術を、大切にすべき個性として見いだし、それを看護実践で発展させ発揮するために、お互いに励ましあい、環境を整え、必要時には資源を提供することが重要です。

受け入れ側の看護師たちの肯定的なスポンサーシップは、 もしかしたら採用時には中途採用看護師本人にもみえなかった能力や技術を引き出し、看護師としてのすばらしい活躍によって、施設への還元をもたらすかもしれません。

このように考えると、なぜ有効なのかがわからずに、「ほめる」とか「声をかける」いう行為のみを追いかけてもあまり意味がないことがわかります。看護管理者や教育担当者は、中途採用看護師教育において、何を重要視するのか、そのビジョンと自らの役割について、明らかにしておくことが大切です。

そのことが根拠として、指導者の行動に力を与えるのです。

「何をすべきか⇒ なぜそねが必要か⇒ どうやるわ`」を、相手が実感をもって理解できるように、繰り返し伝える。

では、実際に中途採用看護師を指導するためには、 どのようなかかわり方が必要なのでしようか。スポンサーシップを含めて、その全体としての機能を整理してみましょう。

中途採用看護師の指導において必要な基本機能

看護管理者や教育担当者は、実践現場における中途採用看護師のさまざまな変化や学習のレベルによりそって、その人の成長に必要な支援を与えることを基本的役割としています。その役割を遂行するには、中途採用看護師の状況に応じて、以下のような機能を的確に提供することが必要となります。

ガイドとしての機能

中途採用看護師が遭遇する出来事に対して、さまざまな側面から「ガイド役」として案内することです。道に迷わないように目印やポイントを示していくというイメージだといえるでしょう。つまり、出会う環境にどのように向き合うかという、環境に対する支援がこれに該当します。

たとえば、施設の年間スケジュールや1日の仕事の流れなど、これから中途採用看護師が遭遇するであろう予備的情報を事前にわかりやすく提供することが、この機能の重要な側面です。

組織に所属していると、 もうすでにわかりきっていることも、中途採用看護師にとっては不明なことは多々あります。できるかぎり、初めてこの施設の一員となる中途採用看護師の目線で情報を提供できると信頼度が高まります。

ケア提供者としての機能

中途採用看護師の具体的な世話をするという機能です。必要なものを提供し、安全で安心できる環境を整えるというプロセスがこれに該当します。たとえば、私物はどのロッカーに入れるのかをあらかじめきちんとオリエンテーションします。

ロッカーは前もって確保し、 きれいにしておくことが大切です。食事や休憩には、 どのタイミングで入るのかを知らせておいて、実際に声をかけます。

このようなことは指導項目とはいえませんが、配属されて間もない時期には、緊張で不安定な状態の中途採用看護師にとって、 とくにこの具体的なケアの提供は欠かせないサポートになります。

コーチングの機能

承認、質問、フィードバックなどを通じて相手の自発的な行動と能力を引き出し強化していくことをいいます。

ティーチングとは異なり、 コーチングは、自らが答えを導き出すプロセスを支援するということになります。コーチングのスキルとしては、承認やアクテイブリスニング=傾聴などが、実践の指導場面でもとくに有用なスキルとして注目されています。

中途採用看護師が新しい環境に適応し、いきいきと行動するには「私はこの組織に存在する価値がある」と自分で自分を認めることができることが大前提です。そのために、看護管理者や教育担当者は、相手のそのままの姿を認めて力づける、承認のスキルを実践することが重要です。

その具体的なポイントとしては、

  1. 事実を伝える。
  2. 気持ちをそのまま伝える。
  3. 存在に気づいていることを伝える。
  4. どこがよかったかを具体的にほめる。
  5. 必要時には、ちゃんと叱る。
  6. 相手が気づくようにわかりやすく表現する。
  7. アクテイブリスニング=傾聴

などがあります。

「ほめて育てる」ことを重視するあまり、とにかくほめるというかかわり方に過度に関心が集中した時期もありましたが、現在は、さまざまな場面で相手を承認する具体的なスキルの重要性が強調されています。

また、多忙な部署では、オリエンテーションや指導が先にたち、中途採用看護師の話に耳を傾ける時間は、意識しなければとれないと思われます。アクティブリスニングが相手に伝える承認のメッセージは非常に強く、相手に「短い時間でも、一生懸命聴いてもらえている」と思わせることができます。

この聴き方を意識して自身のコミュニケーションのやり方に取り入れることは、有効な指導スキルとなります。

ティーチングの機能

指示や助言によって、相手の能力獲得を支援するプロセスをいいます。コーチングは相手が自ら答えを見つけるという側面が強調されるのに対して、ティーチングはより具体的に望ましい答えを与えることだと考えることができます。

中途採用看護師は多くの場合、看護の実践経験をもっているので、経験から学ぶ際の自分自身の学習スタイルがある程度確立されている人が多いことが予想されます。そのため、中途採用看護師の学習スタイルにあわせた、的確で柔軟なテイーチングが重要になります。

学習スタイルとは、たとえば、何か新しいやり方を学ばなければならないときに「説明書を読む」、「とりあえず使ってみる」、「ほかの人に使い方を見せてもらう」といった具合に、視覚、聴覚、身体感覚などを使ったその人の学び方のスタイルのことをさします。

現場でのさまざまなテイーチング場面で、その効果を最大限に引き出すには、計画、実施、評価というプロセス管理も大切ですが、このような学習スタイルのように、具体的なやり方を工夫することが欠かせません。

スポンサーとしての機能

その人が最高のパフォーマンスを行えるように、相手の個性を見極め、それを承認し発展させるプロセスがスポンサーシップです。スポンサーは、相手に強い関心をもち、その人の内部にさまざまな可能性が秘められていると信じることが重要になります。

そのためには、中途採用看護師がどのような個性をもち、 どのような強みをもっているのか、さらにどんな思いでこの施設に就職を希望したのかなど、採用担当者は配属先の部署に伝えることも必要です。

さらに、中途採用看護師の能力を引き出すための面接を定期的に行う、中途採用看護師が出席するのがよいと判断した研修会や学会、セミナーなどの情報を提供するなど、さまざまな支援によって環境を調整し、あらゆる資源を提供する人がスポンサーなのです。

部署の「育てる」意識を浸透させ、行動に起こす

これまで述べてきた中途採用看護師教育の基本的な考え方を、実際に行動に移し影響をもたらすのは、看護管理者や教育担当者だけでなく、主に中途採用看護師に直接かかわる受け入れ側の看護師です。

受け入れ側の看護師が指導を要求する

受け入れ側の看護師が、中途採用看護師に対して適切なかかわり方を統一して実践できるためには、どのように中途採用看護師にかかわってもらいたいのか、どのように指導してもらいたいのかのビジョンを、モチベーションを強化するです。

ビジョンは、

  1. 具体的であること
  2. 簡潔であること
  3. 方向性を示していること
  4. 魅力的であること
  5. 個性的であること

が大切なポイントとして述べられています。このビジョンを実際に動かすためには看護管理者が、

  1. 講義する
  2. ポスターに標語として掲示する
  3. カンファレンスや申し送りなどで話す
  4. 立ち話で教育担当者に話す

など形を変えさまざまな表現や行動でもって受け入れ側の看護師に何度も説いていくことが重要です。

看護管理者の考えを看護師に浸透させていくには、時間が必要です。一朝一夕では、ビジョンについて看護師が納得して行動化することは不可能です。

また、「こういうかかわり方をすべきです」と指導方法を押しつけると、逆に受け入れ側の看護師は拒否反応を示す場合があります。自分たちの部署では中途採用看護師にどのようにかかわるのかについて、受け入れ側の看護師全員で検討し決断することも大切なポイントです。

教育担当者は、受け入れ側の看護師が部署の状況に応じて、 どのように中途採用看護師にかかわるのかを自己決定できるように場を設定することが重要です。

  1. 中途採用看護師は、期待する役割行動をとってくれない、受け入れ側の看護師に対して、期待する役割を説明するだけでは、忘れ去られてしまう。
  2. だからこそ、どのようにかかわつてもらいたいのかを、受け入れ側の看護師にていねいかつ具体的に看護管理者が解説することが大切である。
  3. 受け入れ側の看護師が納得して行動を起こすためには、繰り返し方法を変えて看護管理者が説明し続けることが必須である。

「教えなきゃ」という意気込みや不安から脱却する

現場の教育担当者の方に話を聞いてみると、プリセプターや教育担当の役割を任命された際に、とてもうれしいという思いをもった看護師はあまり多くないようです。

逆に「看護教員など、人を教育した経験がないので不安だ」、「部署全体でかかわってくれているとはいえ、教育担当者としてのプレッシャーはかなり大きい」、「思ったように進まないジレンマが常にある」との声が多く聞かれます。

小中学校や看護基礎教育において「教育者中心」で学んできた私たちは、教育担当者というだけで「あれも教えなきゃいけない」、「医療事故が起こったら私の責任になるから、ちゃんと教えて、みていなくちゃ」と自分1人で重荷を背負ってしまいがちです。

教育担当者として正しい知識を正確に伝えることは大切ですが、「教育担当者としてどうあるべきか」よりも、「中途採用看護師はどんな知識や経験をもっていて、何を伸ばしてあげればいいのか、何を支援してあげるともっと成長するのか」といった中途採用看護師の希望や望みをアセスメントすることに力を注いだほうが、教育効果ははるかに高いはずです。

新卒看護師教育で多く用いられているプリセプターシップは、臨床現場において、1対1の関係を基本として、看護学生や新卒看護師のすぐ近くで、経験のある看護師が支援者として、またロールモデルとして活動するお互いの学びの方法と定義することができます。

教育担当者は「知識や技術をとにかく教える」のではなく、この部署にちょっと先に就職した「経験のある看護師として」中途採用看護師をサポートし、「支援者として、またロールモデルとして」活動し、お互いに学びあうことが役割になるのです。

まとめ

中途採用看護師から質問されたことに対して、知らないことがあったらどうしようという不安や間違いをおそれる必要はありません。知らないことをどう調べるか、失敗や問題にどう対処するかを、中途採用看護師に見せることが指導の意義があるのです。

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