新人看護職の離職を防ぐプリセプターシップ制度の導入

新人看護職の悩みと辞めたいと思った理由を調べてみると「看護職になり仕事を続ける上での悩み」の上位は、

  1. 専門的な知識・技術の不足、
  2. 医療事故への不安
  3. 基本的な看護技術が身に着いていない

 「辞めたいと思った理由」の上位としては、

  1. 看護職に向いていないのではないか
  2. 医療事故への 不安
  3. ヒヤリ・ハットレポートを書いたこと、

となっています。

近年の患者の権利意識の向上や医療安全の観点から、人間を相手とした技術実習の経験が制限された結果として、新人看護職の臨床看護実践能力と現場で 求められている水準とのギャップが、浮き彫りとなっています。

今、各医療機関では、そのような観点から、新人看護職員の定着率を上げる対策として、プリセプターシップを強化し、精神的サポートも含めた決め細やかな研修制度の構築に注力しています。

しかし一方では、自分が描く看護師像と、実際の姿が全く違うことに落ち込み、疲れ果て、誰にも相談できない。いつか事故でも起こすかもと不安になって、新人看護師がすぐに辞めてしまう医療機関もまだまだ少なくない。

潜在看護職と看護管理者のギャップ

退職した看護師と現場の管理職の認識のギャップを示しているのが、2007年の日本看護協会の調査です。

退職した看護師の離職理由には、勤務時間の長さや夜勤の負担といった勤務条件に関するもの、医療事故に対する不安や責任に対する負荷、といったものが含まれているのが特徴的です。

また、実際に離職経験のある潜在看護職と看護管理者とでは、離職理由の考え方に認識のずれがあり(表1)、看護管理者は、離職理由についてライフイベントやいわゆ る自己都合によるものと認識しています。

辞めた看護師と仕事を継続している看護師ましてや管理職ではギャップがあるのも当然ですが、この結果には、看護師の定着を向上していくためのヒントが含まれているように思います。

離職後に再就職した看護職員

表1 潜在看護師の離職理由と看護管理者の把握する理由の比較

ナースセンター、ハローワーク、有料職業紹介事業者の利用の有無

出典:日本看護協会:社会保障と税の一体改革に向けた新たな看護職員確保対策に関する研究

中堅看護師の負荷は深刻

新人看護師の定着率向上や潜在看護職の再教育に重点が置かれる中、日々の指導に当たる中堅ナースの負荷も増加しています。

あるナースは、

「もう頭に来ましたよ。だって、新人指導のオリエンテーションで『新人さんに負荷を与えないように、怒ったりしないように』って言うんですよ。何でもかんでも新人、新人って」。さらにヒートアップしてきて、「こっちは、しなくてもいい仕事までして、新人に付き添って帰りの時間も遅くなって いるというのに全くもう。おまけに新人が泣き言でも言おうものなら、プリセプターの私の責任みたいな。私だって新人の時は、怒られたし、辞めたくなったり もしたし、でも、乗り越えるんです。みんな、自分で」「全く、怒るな、優しくって、いったい私たちには誰が優しくしてくれるんですか!」

と、話は止まらない。

確かに、新人の定着率を向上させることや、潜在看護師の発掘と再教育は、今の看護職員の確保の重点課題です。

しかし、その陰で中堅ナースに負荷がかかり、逆に現在の重要な戦力である彼女らが疲れ切ってしまい、退職、転職をしようと考える事になる。というようなことにならないような対策も、必要です。

プリセプターシップの体験と思い

プリセプターの体験と思いをインタビューした報告によると、プリセプターはプリセプティのお姉さん的役割を認識して相談に乗り、気遣い、教えて、期待し、失望する。また、新人のペースに合わせようと見守ることを学び、相互の距離感を調整しているという。

プリセプターは周囲から評価されていると感じ、先輩からのダブルメッセージに混乱し、評価に納得できずに反発を感じる体験をしています。

一方、 仲間の支援を受けたり、上司や先輩からの肯定的な視線を感じ取り支持されることにより、チームでやればいいんだという、協力を得る可能性にも気づき、 また、新人の失敗に対して、責任を感じたり、自分を責める様子もあります。

私もプリセプターを初めて経験した時、確かに、こんな感じだったと思います。でも、新人さんを怒らないようにとは、しつこく言われた覚えはありません。

新人の時には、厳しい先輩もいたし、ドクターにも怒鳴られたことがあり、その時には本当にビビッてしまい逃げ出したくなったものでした。しかし、周りもみんなそんな感じだったし、2年目以降は、(何、怒鳴ってんだ)と心の中で逆切れしながら対応したものです。

プリセプターシップとは

看護師を育成するプリセプターシップという制度を導入している医療機関があります。

病院に就職したての新人看護師(プリセプティー)の教育・指導を担当する看護師(プリセプター)を任命する制度のことで、大抵2~4年目の看護師がこれを任されます。

プリセプティーは、初めての体験や環境が一気に押し寄せてくることで、パニックになることもあれば、期待と現実のあいだに生まれるギャップ「リアリティショック」を受け、精神的に不安定になることがよくあります。

プリセプターはそういったプリセプティーを助け、一人前の看護師に育て上げるサポートをする役割なのですが、年間の指導内容が詳細に決められており、うまく導いていかなければならないのです。

とはいえ、まがりなりにも「指導者」となるわけですので、誰でも務まるというわけでもありません。

プリセプターには、プリセプティーが周囲の先輩看護師と円滑なコミュニケーションをとれるように、きちんと橋渡しをしてあげる力が求められますし、すべての看護業務の指導するティーチングから、一人立ちを促すコーチングまでの素養も求められます。

プリセプターシップのメリット

新人看護師(プリセプティー)の離職を防ぎ、成長を促す効果はもちろん、教育・指導を担当する看護師(プリセプター)の成長をも促すことができます。

自分自身が身につけた知識・技術を、誰か他の人に教える時、さらに一段深く、その知識・技術を理解することができます。

そういった「ひとに教える機会」が創出できることが、こういった徒弟制度風の看護職独特のシステムの良い点だと言えます。

また、教育体制を常に見直し改善する機会も生まれ、職場環境全体を活性化させる効果もあります。

大きなデメリット

ただでさえ日常の業務に忙殺される先輩看護師に、さらに大きな仕事を一つ増やすことになる点でしょう。

うまく指導しなければ、ほったらかしにされている疎外感をプリセプティーに与えてしまうことになりかねませんし、構い過ぎると依存させてしまうことにもつながります。

また、どうしても生じてしまうのが、人と人との相性の問題です。こればかりは回避するのが難しい問題ですが、ひとを育てるのは、いつの時代、どこの世界でも難しいものなので、万全のシステムというのは存在しません。

ですが、こういったひとがひとを育てる関係性を育む試み自体は、その組織集団に合った形や手法で取り入れていってほしいものです。

いまどきのナースは…

いまどきとは何か—-。

「いまどき」を考えていたら、去年まで都内の高校で医療看護の非常勤講師をしていた時のことを思い出しました。

「スッピンで は恥ずかしくて外を歩けない」、と付けまつげを2枚付けたお面みたいなメイクを、バッチリしていた女子高生が保育園に実習に行く際、化粧を落とすか落とさないかで、担任の先生ともめていた。

(明らかに泣きますよ、その顔見たら保育園児は)と思った私は、(落とすに決まってんだろうが!)と思ったのですが、担任の先生は忍耐強く、優しく丁寧に生徒にお話をしていました。厳しくすると学校に来られなくなってしまう生徒が増えているのだそうです。

ミスマッチかわがままなのか?

『若者はなぜ3年で辞めるのか?』 という本があります。この中には、業種は異なるが、今の「若者」と呼ばれる世代と仕事の関係が書かれています。

大卒入社3年以内で退職する人は実に 36.5%、その数は、まだまだ伸び続けているそうです。それについて、企業の採用担当者は、本人の希望と実際の業務内容がかみ合わないミスマッチだと言う。

採用担当者は本書の中で、「今の若者はわがままな反面、我々の世代と比べると明らかに忍耐力が劣っている。だいたい企業で最初から好きな仕事ができるなんて考えが甘い」と、ばっさり切り捨てています。

しかしその一方で、その会社ではインターンシップを導入して、学生に実際の職場を体験してもらい、入社後の ギャップを少なくする取り組みも継続しているのです。

若者に対して文句を言いながら、忍耐強く対応している人事担当者の苦労が想像できます。

学生の二極化

日本の社会では、これまでの年功序列・終身雇用制度が最大の優良組織の条件とした時代から変化し、採用する人材も変化してきました。

就職活動している学生は二極化し、明確なキャリアプランを持つタイプと、有名企業をとにかく手当たり次第に受けるタイプがあります。

明らかに優秀なのが前者なのですが、彼らは仕事に対する意識が高すぎ、「何でもやります」的な就職活動で入社した昭和的価値観(というらし い)の先輩にとって、「自分がこの会社に来たのは○○をするためだ」と言ってのける後輩はわがままに映るらしい。

しかし、バブル崩壊後の企業の厳しい選考を勝ち残るために、必要な「進化」の結果でもあると著者は記しています。

看護職はどうなのか?

看護師はどうなのだろうか? と考えていた時、「へこたれない”看護師を育てる」 という記事が目に留まりました。

その中で、看護基礎教育の中で今後、力を入れるべきこととして2点挙げられています。

一つは、「看護の使命、役割を学び、素晴らしい仕事だと誇りを持つこと」

もう一つは、「看護師は組織で働くものだということ」

「自分が思っていた看護とは違う」と感じる新人看護師は、少なくないと記されています。しかし、大きな組織が、たかだか1人の看護師の意見で動くはずもなければ、また言っている看護師自身も、そんな強い意志があっての発言でもなかったでしょう。

ところが今、日々の仕事の中で、「自分が思っていた看護とは違う」というコメントは、新人看護師や若い看護師だけではなく、年齢に限らず気になる発言としてよく耳にします。

いまどき、は歳ではない

「いまどき」とは、年齢でひとくくりにできるものではないでしょう。40代の看護師だって、「患者さんのための看護はこうあるべきだ」と言いますが、ではそこで、自分がそれを実現できる環境をつくったり、実践することは自分の役割と思っているかといえば、そうではなさそうです。

看護の教育には、看護のスペシャリストを育てる機能以外のものが、必要だと常々感じています、その一つの鍵が「組織で働くということ」を教えることにある、という意見に大いに共感しました。

組織の中で仕事をするということについての基礎教育は、実は最近されていないのではなく、これまでされていません。

まとめ

新人看護師の悩みと辞めたいと思った理由は、臨床看護実践能力と現場で求められているスキルとのギャップでもあります。

新人看護師を定着させるためのプリセプターシップ、精神的サポートや研修制度の構築も進んでいますが、すべての病院がそうであるわけではない。また、新人看護師の指導に当たる中堅ナースが、疲れきってしまうケースもあります。

より良い労働環境を求めて、転職をする看護師も増えることにも繋がります。

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