看護師のワークライフバランスと諸外国における看護職との比較

英語圏の看護師

看護職の男女の割合は女性949%、男性は5.1%と、女性が多い職業です(平成20年度保健・衛生行政業務報告「衛生行政報告例」)。女性の看護職の平均年齢は、生命の危機状態や全身管理が必要な状態の人を多く治療する「急性期の施設」で32歳、症状は激しくないが、完治が困難な状態が長期間にわたる人を多く治療する「慢性期の施設」で37歳です(日本看護協会「日本の医療を救え 2011」)。

このように、看護職は子育て世代の女性に多い特徴があります。

女性看護職のあわただしい毎日

子育て世代の看護職は忙しい毎日を送っています。朝は、出勤前の準備をしながら、子どもが幼稚園や保育園、学校へ向かう支度をします。大急ぎで子どもを見送り、今度は職場へ走り、看護職としての勤務時間となります。

勤務後は休むことなく、子どもの迎え、夕食の準備や片づけを終え、翌日の準備をしたらようやく就寝です。夜間勤務などの際には、家族や夜間保育サービスなどに預けて、勤務先へと向かいます。

このように、子育ての時期の女性看護職は、社会では看護職として人々の健康を支える役割を担い、家では母親・妻の役割をもつ、たくましいスーパーウーマンなのです。その実態潜在看護師問題、エピソード、看護職にたいする思いをご紹介していきます。

潜在看護師についての課題

看護職の資格をもちながらも働いていない“潜在看護師”が多いことも課題となっています。

離職理由で多かったのは妊娠・出産30%、結婚28.4%、子育て21.7%、という理由のほか、長時間勤務・夜勤と職場の労働条件が挙げられています(日本看護協会「日本の医療を救え 2011」)。

日本看護協会では、これらの課題を解決して、看護の仕事をする1人ひとりが仕事と生活の両立を無理なく実現できる状態=ワークライフバランスを目指して、さまざまな取り組みを進めています(夜勤や休日勤務の短縮。免除、院内保育の充実、短時間正職員制度:時短勤務で正職員の待遇を受けられるものなど)。

病院や医療施設によっては、看護職としての託児所や学童保育施設の充実、短時間勤務の正規職員の採用など、さまざまな取り組みが導入されています。

子育てをしながら働く看護師Aさんの例

2児の母であり、看護師です。いまは日勤業務が主な部署で働いています。子どもが生まれ、仕事に復帰したときは「家事や育児はちゃんとできるかな。仕事はしっかりできるかな」と不安もありました。

勤務先の病院には託児所がついているので、日勤の日には朝、勤務前に託児所に子どもを預けて、急いで着替えて勤務に入ります。勤務が終わったあとは、託児時間が終わるまでに急いで託児所に向かいます。

私と同じように子どもを院内の託児所に預けて働いている看護師や医師、検査技師もいるので、院内でほかの職種と子どものことや子育ての大変さを話す機会も増えました。職場には同じように働きながら子どもを育てた、先輩看護師の方も多いので、仕事の仕方や子どもが急に病気になったときにどうしたかなど、アドバイスをもらっています。

子育てと仕事の両立で大変なのは私だけではないんだなと、少し気分が楽になる時間です。

働く看護師ママのある1日

5:30 起床 朝の準備、洗濯と夕食の下準備
7:00 出勤
7:30 子どもを学校、保育園ヘ
8:00 仕事開始
17:00 仕事終了
18:00 子どもの迎え
19:00 夕食、片づけ、子どものお風呂
21 :00 子どもの寝かしつけ
23:00~24:00 就寝

看護師のエピソード 1

保健師助産師看護師法で、看護師は「療養上の世話又は診療の補助」を行なうとされます。看護師は、「診療の補助」でも、医師の指示どおりすべてを行なうのではなく、看護師が判断して必要と考えたことを医師に伝え、話し合いをもち、患者にとって何が必要なのかを考えることが求められます。

ここでは、ある患者の治療方針をめぐる、看護師と医師とのやり取りを紹介します。
患者の治療方針をめぐる医師と看護師の会話

医師やともに働く人たちと情報共有することが大切

ケース紹介

Aさんは60代後半、肝硬変末期の患者。体のだるさがひどく、消耗し、寝たきりの状態。黄疸(ビリルビンが血液中に増加、皮膚や粘膜が黄色くなる状態)が著しい。ときどき意識がぼんやりとし、周囲の状況がわからなくなることがあるが、声をかけると我に返り、会話ができる。

飲み物は飲めるが、食事はほとんど食べられず、点滴で栄養を補つていた。手足が痩せていき、毎朝の採血処置も痛がる。現在、行なわれている処置は、医師の診察と毎日の採血検査、それによる点滴薬の調整である。これ以上の治療はむずかしく、肝機能、腎機能は徐々に悪化しており、もう余命は長くないことが、家族に伝えられていた。

患者への治療方針をめぐり、医師と話し合いを繰り返した看護師

医師は、毎日肝機能を測定する採血をし、処置を検討したいと考えていました。しかし、受けもち看護師(プライマリーナース)は、死が近づいたいまの状態で、そこまでの検査をし続けることに疑間をもっていました。そこで、看護師は医師とこれからの治療方針を検討したいと考えました。

この看護師は、Aさんの状況を最も理解しているのは自分だ、という自負があったため、医師の指示をそのまま受け取りませんでした。

Aさんはこれまでも何回か入院していたため、Aさんが何よりも家族を大事に思っていたり、痛い処置が苦手ということもわかっていました。この看護師は、Aさんの幸せな最期は何だろうとあらゆる面から考え、医師に提案し、チームで話し合いました。

話し合いの結果、医師は採血を数日に1回にすることにしました。このときの、看護師の毅然とした態度。自信は、まさに、病気ではなく「病気とともにある人」をみる、という看護師としての自負を私は感じました。

こうした状況で患者によりよい治療や看護を提供するには、看護師はふだんから、医師やともに働く人たちと意思の疎通や情報共有をすることが重要です。患者の状態や治療方針を共有し、いま患者が何に困り、何を大切に思っているかをチームで共有するのです。

Aさんは、ご家族とスタッフに見守られ、安らかに息を引き取りました。緩和ケア病棟でなくても、家族と医師・看護師などの治療チームが治療方針をしっかりと話し合っておけば、必要以上の検査を避け、安らかな最期を迎えられます。

看護師は、患者と家族の希望を理解し、治療方針につなげる役割を果たせるといえます。

看護師のエピソード 2

病をもちながら力強く生きる人々を支援する精神科訪問看護職

患者がもつ力を存分に発揮できるよう見守り、手伝いをする
精神科の病気というと、どのようなイメージがありますか? 落ち込んで希望がもてなくなる「うつ病」、幻聴が聞こえるなどの症状がある「統合失調症」では、脳神経細胞間の神経伝達物質のバランスが崩れることがわかってきました。

精神科の病気にかかると、一昔前は、入院病棟で治療を受け、長期入院をする人が多くいました。しかし、現在は上記のメカニズムに対して、効果のある薬が開発され、早期に退院して地域で暮らす人がほとんどになりました。

そんな人を支える看護職として、「精神科訪問看護」があります。精神科の病気は、薬だけで治すものではありません。安心できる環境や人間関係があることがストレスを下げ、再発や症状の再燃を予防します。

日常生活で出会うトラブルの解決法を一緒に考えたり、本人が生きたい人生の目標に向かう手伝いをします。精神科訪間看護をしていると、人生でさまざまなご苦労をされても、たくましく、力強く生きる姿に感銘を受けることがよくあります。ここでは、そんな出会いをご紹介します
(個人情報を守るために改変しています)。

パートナーと力強く生きるAさん

30代のAさん(男性)は、統合失調症という病気と長くつき合っています。彼の症状は、妄想といって、実際にはない考えが頭に浮かび、それが本当に起きているように感じるというものです。

彼は、「自分が特別身分が高い人間である」という妄想がありましたが、その彼の妄想を受け止め、優しく身の回りの手伝いをする奥さんがいました。奥さんも統合失調症で、同じ病院に通っています。

Aさん夫妻は生活保護を受けていましたが、あるとき、Aさんは奥さんを養うために働きたいと思い、コンビニのアルバイトの面接を受けに行きました。しかし、Aさんは自分のこだわりを話し続け、店長から厳しい言葉を投げつけられ、面接も失敗に終わったとのことでした。

Aさんはがっかりした様子で、この出来事を訪問看護師に語ってくれました。しかし、それを一緒に聞いていた奥さんは、「そんなことを言う店長の店なのだから、行かなくてよかったのよ」と、うなずきながら、Aさんに優しくしっかりと伝えたのです。

この場面に同席した看護師は、いたわり合いながら生きる2人の絆を感じ、また、疾患をもちながら、たくましく、次に向かって進むAさん夫妻の姿に強い感銘を受けました。看護師は、支援者として、患者・利用者に「何かしてあげたい」と思いがちです。

しかしAさん夫妻の例から、看護は、ご本人たちがもつ力を存分に発揮できるよう見守り、必要に応じて手伝うことが大事な役割なのだとわかりました。

精神科訪問看護職がいま地域で必要とされている

病院や訪問看護ステーシ∃ンから、精神科疾患で家で暮らす患者のもとを訪問し、療養の相談に乗つたり、日常生活の手伝いや相談をすることを「精神科訪間看護」といい、主に看護師がその役割を担つています。

特に多いのが、薬や病状の相談や支援です。自己判断で薬を飲むのをやめてしまうと病気が再燃するため、医師と相談しながら内服治療を続けられるよう、症状や副作用の相談に乗ります。

毎日の暮らしでは、栄養バランスのよい食事ができる店や、食材を買える店を一緒に探す、洗濯の方法を一緒に身につけていくなど、生活全般にわたる支援をします。また、就職や恋愛、結婚など、患者の人生の相談相手となることもあります。看護師の資質としては、利用者(患者)の価値観やペースを大事にする人、疾患を理解し、主治医や周りの支援者と相談しながら支援できる人が求められます。

諸外国における看護職

看護師を目指すみなさんのなかには、将来、海外の病院で働きたいと考える人もいることでしよう。ここでは、アメリカとイギリスの看護について紹介します。

看護師免許の仕組み 仕事の特徴
日本 養成課程修了後、国家試験受験資格を得て、国家試験を受験。合格し、看護師免許を得て、看護師として働くことができる。合格したら、資格の更新はない。 看護師免許をもつことで、さまざまな職場を選ぶことができる。免許更新や使えない場所がないため、転職。再就職しやすい。
アメリカ NCLEX試験を受け、州ことの免許交付で看護師の資格取得。ちがう州で働くには、改めて承認を受ける必要がある。コンピューターベースの試験で、1年中資格試験を受けられる。一度落ちると州により数か月間空け
る決まりがある。上級実践看護師の資格が4種類(NP、CNS、CNM、CRNA)ある。
州により看護師の実践範囲が異なる。ナース・プラクティショナーの試験に合格すれば、開業や処方が一定の条件のもとに許される。その際には、高額の賠償責任保険に入る必要がある。RNも勤務帯や給料に関して諸外国よりも恵まれているため、外国からの移民ナースも多いが、経済下降期には受け入れが制限される。
イギリス 試験はなく、養成課程修了で看護師として登録され、看護師として働くことができる。成人、精神、小児、助産、知的障害どれかの専門資格であり、他の領域では働くことができない。3年ごとに免許更新があり、更新のためには一定の研修などを受け、認定される必要がある。 基本的に医療は国の制度で、NHS(National Health Services)が無料で提供しており、看護師はその職員として働く。国の方針でサービス体制
が変革していくため、免許を更新するためにも、知識と技術をブラッシユアップしていく必要がある。

アメリカの看護職

アメリカで看護師として働くには、まず、州のBoard of Nursing(州看護協会)の規定に沿って出願します(外国人の場合、自国の免許や成績証明書、TOEFL[英語の試験]やCGFNS[外国人に対する看護の試験]の成績などが必要)。

そして、NCLEX―RN(看護師)かNCLEX-PN(准看護師)の試験に合格してから、働く州で登録を行なう必要があります(登録ナース:Registered Nurse、略してRNといいます)。


参考:youtube.com The American Nurses Association Nurse Fatigue

移民として働くには、就労ビザの申請が必要で、働く予定の病院にスポンサーになってもらい申請します。RNを取ったあと、Advanced Practice Nurse(上級実践看護師:略してAPNといいます)の資格がいくつかあります。

Nurse Practitioner(ナース・プラクテイショナー:NP)は医師より範囲は限られますが、診察や薬の処方もします(州や病院によって異なります)。ナース・プラクテイショナーになるには、経験を積み、専門の大学院で学び、試験に合格する必要があります。薬を処方するなどの医療行為が認められており、責任も重大なため、高額な賠償責任保険に加入しています。

そのほかにも、APN(上級実践看護師)には、CNS(クリニカル・ナース・スペシャリスト)、CNM(助産師)、CRNA(麻酔看護師)があります。一般の看護師(RN)は、患者のケアプランを立て、看護助手に指示をしつつ、協力して患者のケアにあたります。

イギリスの看護職

イギリスの看護師は、日本とは異なり、看護教育課程に入学する段階ですでに自分の専門コースを決めます。専門は、成人看護、精神看護、小児看護、助産、知的障害のコースに分かれ、各専門課程で3年の教育を受けます。多くの実習を含む看護教育課程を卒業後、国家試験はなく、登録で看護師となります。

資格は3年で更新され、それまでの間、研修を受ける・現場経験を積むなど一定の決まりがあります。


参考:youtube.com I am a Nurse – National Nurses Week

イギリスは日本より病院数が少なく、患者の家に出向く看護師も多くいます。イギリスの医療は無料で、家庭医(プライマリケア医)からの紹介で専門の医療を受ける仕組みになっており、日本のように、患者が病院を選んで自由に受診する方法とは異なります。看護補助者とともに働き、看護師も新人からさまざまな段階があり、どのスタッフも医療施設で勉強をし続ける必要があります。

看護師免許の仕組みは、国によって異なる

まとめ

「看護師」というと、どのようなイメージがありますか?病院で自衣を着て働く姿を想像する人が多いかもしれません。私も病棟で看護師として、患者さんのいのちと安全・安寧をつなぐために全力を注いできました。

夜、2人の看護師で50人の患者さんの安全を守り、急変にも対応し、朝出勤してきた日勤の看護師に引き継げた時の安心感、そしてチームのみん
なで協力する達成感は忘れられません。しかし、訪問看護をはじめたとき、私たちの技術を活かせる場所は、病棟の外の世界にもたくさんある、と思うようになりました。

病院から一歩外に出ると、与えられた枠内で患者さんの安全を守るのではなく、看護職に従事している自分と他の専門職の新しい関係のなかでサービスをつくり出すことが求められます。

新しいサービスをつくり出すことは、「病棟を守る」ことに慣れた看護師にとって戸惑うことが多いかもしれません。しかし、看護職の特技である「チームで取り組める能力」は、看護職以外の人との地域における患者さんの支援チームづくりでも活かせると思います。「病気の発症や再発を防ぐ暮らしの手伝いをする」「病気をもっていても住みやすい街づくりをする」など、看護の知識は幅広く活かせます。

この記事をお読みになっている方のなかには、進路を考えている中。高校生だけでなく、他の仕事から看護の仕事への転職を考えている人もいらっしやるかもしれません。

たとえば、建築や経済、サービス業など、どの分野も、看護の知識とむすびつくことで、仕事の幅が広がり、新しいサービスをつくっていくことができると思います。

あなたの個性を活かし、誰かの人生のそばにあり、誰かとともに生きる、そんな魅力が看護にはあると思います。

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